レオタク(FEIf)


形のいいくちびるから、二文字。その言葉を聞いた途端、タクミの体はかーっと熱くなった。赤い双眸はまっすぐにこちらを見つめ、そこにからかいの色は無い。なにも言い返せずに視線を彷徨わせているとまた静かに、今度は誤魔化しが効かないほどはっきりと、二文字。長い間の後に、タクミは乾いた喉を必死に動かした。

「……確かに僕はこの縁をただの友情で終わらせるのはダメだと言った」

「言ったね、それで?」

まるで今晩の夕餉を聞くような気軽さであった。暗夜の者はみんなこうなのか、タクミの頭はぐるぐると混乱し、とても平静とは言えない。外観だけ取り繕うのが精一杯だ。レオンはテーブルに肘をついて、頬杖をしながらもタクミから決して目を話すことはしない。あまりマナーとしては良くない、彼らしくもない体勢も相まってタクミの背筋は反面に伸びる。

「でも、そういう意味じゃないと思うんだけど?」

知っているよ、とレオンは頷いた。整った顔は今までに見たことのないほど真剣な表情を浮かべている。軍議の時にちらりと見るような横顔が、こちらをまっすぐに見つめていた。頬が火傷するほどに熱い。ぎり、とタクミは奥歯を噛む。
一体どうしたものか。断るセリフなんか山ほどあるのに、タクミのくちびるからはひとつも零れ落ちはしない。ただひゅうと震えた息が隙間風のように吹いているだけであった。

何も言わずに目を白黒させるタクミに、レオンはそのままの体制で口を開く。

「何も言わずにそんなに顔真っ赤にしてるってことは脈アリってことでいいのかな」

バッとタクミは顔を上げた。細められたルビーのような瞳とかち合う。激しい動悸がタクミを襲った。自然と目を逸らす事が出来ない。
そうしてまた、今度は真剣に紡がれた二文字にタクミの息は詰まった。咄嗟に出た言い訳も「言っておくけど、友達としてじゃないからね」という言葉で先手を打たれ瞬く間に居場所を失った。

「ね、言ってよ。言わないとわからないよ」

レオンはゆっくり、テーブルの上に置いてあったジュースを飲んだ。タクミのくちびるは乾いている。乾き過ぎて切れてしまいそうなくらい。レオンはじっと、タクミの返答を待つ。視線は未だにタクミから逸らされてはいなかった。すう、とタクミは大きく深呼吸をする。

「……っ、月が綺麗ですね!」

「ここ室内だけど」

「あんた本当に嫌な奴だな!」

冗談だよ、とレオンは笑って手をひらひらと振った。こちらを睨みつける琥珀色の瞳をじっと見つめ、レオンは声色を変えて言った。

「君のそういう所は嫌いじゃないけど、今聞きたいのは白夜流の遠まわしな告白じゃない」

タクミは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、何が違うんだと思い切りジュースを呷った。レオンとてタクミの心境はわからない。

「たった二文字だろう。なにを恥ずかしがる必要があるんだ」

たった二文字、されど二文字。レオンにとっては意味は違えど毎日のように言っている言葉でも、タクミにとっては一世一代の告白である。
さっきジュースを飲んだにも関わらず喉はカラカラに乾いている。ふい、とタクミはそっぽを向いた。完全に口を噤んだタクミに対して、レオンははぁとため息をついた。

しょうがないなあ、と呟いて、がたりと身を乗り出す。ぎょっとタクミは目を見張り後退するも、後ろはイスと壁。抵抗するのが遅れた手はあっという間に掴まれてしまった。
タクミの目の前で金色の髪がさらりと揺れる。相手の息遣いさえ聞こえるくらいの、近い距離。心臓が痛いくらいに高鳴る。

「言ってくれないならずっとこのままでいるよ」

うう、と声にならない唸り声を上げるタクミの頬は、さっきやっと落ち着いたのにまた林檎のように赤く染まった。レオンはいつも通り平然としていて、タクミはそれがたまらなく悔しい。赤い瞳に狼狽える自分の姿が映る。

「……ずるい」

「今更だね」

卑劣な暗夜王子め。地の底から響くような声で悪態をつき、タクミはゆっくりと呼吸をした。レオンはただタクミだけを見つめている。まっすぐに見つめ返し、ようやく口を開く。

「好き」

「……うん、僕も好きだ」

ふわりと溶けるような笑みを浮かべて、レオンはタクミにキスをした。


20150827

prev next

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -