この恋は、



恋をしたよ、とレオン王子は言った。駒を動かしていた手を中途半端に宙に留め、僕はぱちりと目を丸くした。

「へぇ、どんな人?」

「とても長くて綺麗な髪を持っているんだ。結んでいるのがもったいないくらい」

「…それで?」

「趣味がとても合う。好きな食べ物も同じほどにね」

駒は進む。さっきまで優勢だったのに、一気に戦況は変わって歯噛みする。動揺しているなによりの証拠だ。ああまったく。これも作戦のうちだというのか。嘘だというのか。こちらの心境も露知らず、黒のビショップは追い詰める。

「夕焼けを暗くしたみたいな目も持っていてね、その目で見つめられると心臓が高鳴るんだ」

ひとつ白が取られた。劣勢であった。ルビーのような赤い瞳は一心不乱に碁盤に向けられている。別にどうってことない。ただひとつ聞いておきたい。

「…その恋は叶う恋?」

ゆっくりと長い睫毛が持ち上がって僕を一瞬だけ見る。そうだな、と長い息をついて、ゆっくりと白い指先で黒いポーンを持ち上げた。

「きっと叶わないだろうね、世間体もあるし、それにまだ」

そこでレオン王子は言葉を切って、後悔したような表情で眉をひそめた。何となく、その後の言葉が手に取るように想像できた。きっとこれを言えばもう壊れるだろうに、でも構わなかった。僕は静かに笑ってみせる。

「ね、レオン王子。恋をした人って白夜の者で名前の最初にタがつくんじゃない」

弾かれたように、レオン王子が顔を上げた。ひゅう、と喉からか細い息が漏れ、整った顔が歪んでいる。どうして、と声に出さずに問われた。怯えと戸惑いが混ざった顔。そっちがそうなら遠慮なんて投げ捨ててもいいだろう。

「その恋さ、もしかしたら叶うかもよ?」

もう逃がしてなどやらない。

20150811

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