SS(微妙)
2016/03/25 02:46

 出だしがおなじ

暗い部屋にふたりきりでいると世界から閉じ込められてこの世界にたったふたりしかいないような錯覚に陥る。錯覚、妄想、所詮はそういうものなのだけど、感覚としてそう感じるのだ。
 雨が降っている。だから、余計に、ふたりきりなのが浮き立つように思えた。チェスターの手を握る。同じベッドにいるのに僕だけが起きている。チェスターも起きて欲しい、なんて。思うだけ。明日もまた歩き回ったりして疲れるのだから起こしちゃいけない。わかってる、わかってるんだけど。
 それでも。
「……どした、クレス、眠れねえのか」
 そうやって君は、いつでもいて欲しい時にいてくれるから。だから、だから、甘えてしまうんだ。
「ふふ」
「なんだよ」
「起きて欲しいな、ってね、思ってたから」
「へぇ、なんか珍しいな」
「だろ」
 言って、チェスターに近づく。そしたら頭撫でてくれたりなんかして、あーもう、チェスターってば優しい。僕だけにそういうことしてくれたらいいのに。
「なんか今……この世界に僕たちふたりしかいない気がする」
「そういう夢でも見たのか」
「そんなことない……と思う」
「じゃあ」
「ねえ」。チェスターの言葉を遮る。
「なんだよ」
「チェスターはさ……ずっと、ずっと僕と一緒にいてくれるかな」
 当たり前だろ、というチェスターの言葉を期待した。沈黙――雨の音。不安になる。どうしたんだろうか、寝てしまったんだろうか。「俺は」。チェスターはようやく口を開いた。
「お前が、俺から先に離れると思ってる」
「なんで……どうして?」
「わかんねぇよ。そういう予感がする」
「嫌な予感だね」
「そうだな」
 チェスターは目を伏せた。そんな予感外れればいい、と思いながら、彼の予感はよく当たることを知っている。そんなの嫌だ。でも、それでも、このままずっとふたりでいようなんてことは言えないのだから、代わりに手を握るだけにした。そんな無責任なことは言えなかった。まだ、何も終わっていないのに。
「僕は、チェスターといたいって思ってる……本当、本当だよ」
「クレス――知ってるか、本当がつく本当は、ないんだよ」
「……そんなことない。あるよ」
「…そうだな」
 そしてチェスターは目を閉じた。僕もそのまま閉じればよかったのに、しなかった。本当がつく本当はない。
 多分それは、僕が一番よく分かってることだった。


 
 チェスターの部屋に2人でいると、世界にふたりきりになったような錯覚がする。チェスターと仲良くなるのに時間がかかったからなのか、それとも、この村が静かだからか。きっと両方。
 チェスターは珍しく髪を束ねずに流したままにしながらなにかよく分からない本を読んでいる。鬱陶しそうに髪をかきあげる度にさらさらと揺れる髪の音が聞こえるようでどきりとした。髪、綺麗だな、昔から知ってたことだけど。ちょっと自慢。いやかなり。薄暗い部屋に注ぐ太陽の光に反射して銀色にひかる髪はこの世のものでないみたいですごく好き。髪だけじゃなくてなにもかも。なんか、幸せだな。
「……なんだよ」。僕がじっと見てるのに気づいたのかチェスターが顔を上げた。
「ね、チェスター、髪さわらせて」
「はぁ? 別にいいけど」
「うん」。言ってすぐにチェスターの後ろに座る。
 手で髪をすっと通すとそのまま枝毛とかに引っかかることなくすとんと手が下まで落ちる。いつものことだけど、感動ものだ。調子に乗って髪を弄っていると擽ったかったのかチェスターが少し身じろぎした。
「くすぐったい?」
「いや、なんか……変な感じ」
「え?」。言ってからチェスターは慌てて、
「そうだくすぐったい! 変なことすんな!」。とキレた。照れ隠しかな。かわいい。
「もーお前、帰れよ」
「ええー? ごめんって」
「知らない」
 つーん、と擬音が聞こえるようですこし面白い。かわいいね、とは口に言わずに思うだけに留める。ああでも、昔に比べれば、帰れって言い方やさしくなったなあ……。
 思って、チェスターの背中にくっついた。
 あったかい。



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