審議は結局エルヴィンの尽力により、死罪は免れて調査兵団預かりとなった。
が、其の経過については四月一日はウトウトしていたので、よく覚えていない。
覚えているのはよく分からないオッサンに異端だ悪魔だと罵られたので全力で唾をとばしたことくらいである。

「この部屋を使ってくれ。」

「おうよ。」

「となりはリヴァイの部屋だから気を付けてね」

「あいよ。」


エルヴィンとハンジに付き添われて使用する部屋やその他食堂などの説明を受けた。
が、これまたよく覚えていない。
覚えているのはすれ違う調査兵団の奴らがガンとばしてきたので此方もガンとばしかえしたことぐらいである。

「ところでその足、義足なの?」

目をきらきらさせながら訪ねてきたのはハンジ。
四月一日はニカリと笑って太股まであるブーツを脱いだ。

ソコには黒光りする陶器のような足があった。
しかしその関節は見間違えることもなく球体間接で、継ぎ目の割れ目に神経コードが剥き出しになっている。
大方巨人とドンパチやってるときに破損したのだろう。

なんて事だ、こんな精巧な義足なんてみたこと無い。
スゴイスゴイ、触らせて、うわー。スベスベ。
すごいよ。
足の指まで動くの?なんて事だろう、こんな物があったら巨人に手足を食われてもさして問題ないだろうね。
どうやって作ってるの?材料は?神経と機械をどうやって繋げてるの?
付け心地はどんな感じ?
ちょっと取り外してみてよ。

けたたましくまくし立てるハンジを横目に四月一日は己の義足をユルリと撫でた。

「取り外しは出来んだけどよ、貸してはやれねぇ。
コイツは国の技術だからな。
材料も国家機密だ。」

国家機密というのは言いすぎだ。
しかし、おいそれと自分の秘密を教える事は出来ない。
いざという時にここの人間共を皆殺すとき、弱点を知られているのは不利でしかないからだ。

神妙な顔をすればハンジはその笑顔をすこし押し込めて分かった。ごめんね。と苦笑した。
そのハンジに苦笑でかえしながら内心で別のことを考えている四月一日の嘘で固められたその笑顔を見抜けるものは此処にはいない。

「おい小娘。」

後ろから声がしたので嫌々ながらも振り向くとそこには相変わらず眉間に皺のよったリヴァイが立っていた。

「ぁんだよ、オッサンかよ。」

舌打ちの一つでもすれば面白いように眉間の皺が深くなる。

「何だその嫌そうな顔は」

「生まれたときからこんな顔なんだよ、悪かったな」

べーっと舌を出せばリヴァイの眉間がさらに皺を刻む。

で、なんかようかよ。オッサン。

そう訪ねればリヴァイは腕を組んだまま偉そうにしゃべり始めた。
どうやらオッサン呼びは諦めたらしい。

「俺の部屋の隣に居座るならばそれなりに綺麗にしておけ。
隣の部屋がゴミ部屋なんぞゴメンだ。」

虫酸が走るとそういうリヴァイに欠片も似ていないのに尊敬すべき濃霧の姿が重なって一瞬クツリと表情が崩れた。

「このオレ様の特技だぜ、掃除なんてもんはよ。」

嘘だがな。

と心の中にて呟きながらリヴァイに親指をつきだしておく。
無言でその親指をへし折ろうとするリヴァイを冷や汗を流しながら止めた。
林檎先輩とは似ても似つかねぇじゃねぇか。





夏の夜でも國津神では窓を開けていても微弱な電波を放つことで虫が寄り付かない。
だがここではそのような文明の利器が発達していないようで灯りにつられて羽虫やらなんならが入ってくる。
四月一日は頭の上を飛び回る羽虫をぼーっと見詰めながらベットに横たわっていた。

消灯時間は当に過ぎていて、完全なる闇が当辺りを支配する。
一向に重くならない左目の瞼を開いたまま、失った右目に手をやる。 
武器はまだ返されてはいない。
もう暫く様子をみると言うことだった。
心許ない。不安、焦燥、喪失感。
服を着るように身につけていた数々の武器。
それが無いだけで、この負の感情の悪循環に苦笑した。

「…」

口元を動かして紡いだ誓い。

絶対帰る。

その誓いを胸に眠ることの出来ない脳を無理に休ませることにした。


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