翌日、四月一日は隣の部屋の住人が動き出す気配に目を覚ました。
目を覚ましたというのには些か語弊がある。
眠っていた訳ではないのだから。
知らない場所で武器も無しに眠れるほど大物ではない。

昨日のままの知らない場所。

目を開ければ見知った天井があればよいとそう何度願ったことか。
四月一日は自嘲気味に笑うと二度寝の体制に入った。
ここの住人が起こしに来るまで眠っていればよい。

もう暫しの惰眠。





宿舎の廊下を悠々とあるくのはハンジ。
なにやら鼻歌を歌いながらピョコピョコと楽しそうにあるいている。
向かう先は先日突然現れた奇妙なナリをした目つきの悪い可愛らしい女の子の部屋。
可愛らしい女の子というには些か語弊があるような気がするが気にしない。

そんなこんなでとうとうその部屋の扉の前に来ると周りの迷惑を考えることもなく無遠慮にドンドコドンドコと扉を叩きながら言った。

「ツバキ!朝だよ!ご飯食べよー!そんでその手足の義肢見せてよ!ねーはやく!あけるよ。あけちゃうよー!」

返事も待たずにバコンと開けた扉の向こうでは四月一日が昨晩別れた時と同じ格好で其処に立っていた。

「朝からウルセェんだよ!」

背筋伸ばして死にやがれと付け足す四月一日をじっとみつめ、その後ハンジは急に喚きだした。

「ゴメンね!ツバキ!着替えとか無くて大変だったよね!」

「…は?」

四月一日としては特に問題でもなければ気にもしていなかった。
風呂なら軽く水を浴びたし服も特殊繊維で作られているので汚れにくい。
洗えば一晩で乾くし破れにくい。
それ以前にゲリラ戦や内乱などに多く関わり、長期任務も多かった四月一日にとって服だの風呂だのは本当に些細な事でしかなかった。
それ故に間抜けな声が出てしまった。

「今すぐ用意するね!待ってて!」

「いや、別にこのままでいいんだけど。
つか眼鏡、オレ様昨日四月一日って呼べって言ったよな

言ったよなぁおい。
この耳は頭部のかざりかぁおい!」

四月一日は笑いながらハンジの耳を引っ張った。

引っ張られる耳が頭部からおさらばしないように四月一日の手を抑えるハンジは泣き笑いだ。

「千切れる!千切れるから!」

「おうおうおうおう!グロッキーに千切れろや!」

と、そこに四月一日の隣の住人ちっさいオッサンこと、リヴァイが現れた。

「朝からウルセェんだよ。静かにしやがれ。」

「あ、おはよーリヴァイ。良い朝だね。」

「なんだよ、またてめぇか。オッサン。」

「…おいハンジよ、これのどこが良い朝なんだ。」

リヴァイの目にはハンジの耳を引き千切れろうとする四月一日が写っていた。
やけに騒がしいと思ったらコレか、とそう冷静に判断するリヴァイの眉間には今日もまた皺が盛大に刻まれている。





「で、ツバキはホントはどこからきたんだい?」

目をきらきらさせながらハンジがそう言ったのは朝食を取っている最中のことだった。

四月一日は口に入れかけていたパンもそのままにその質問について思考した。

ホントは、と言うことは四月一日が話した事実を信じていないということだ。
そんな曖昧なままの四月一日を何故に野放し状態にするのだろうか。
いや、その理由なんて分かりきっているじゃないか。
この人間離れした身体能力を巨人殲滅のために使うのならば少々グレーな存在も組織の中に取り込むと、そう言うわけだろう。

…これじゃぁ何のために一から国について話したのかわからねぇじゃねぇか。

「ホントも嘘もオレ様は話した通り、國津神の軍人だっつーの。」

大方頭おかしめのガキだとでも思われてるか、とも思ったがそうでも無いらしい。

「だからこの壁の外に国が有るんでしょ!
どこなの!どんなところなの!ねぇ、教えてよ!」

なるほど、そうきたか。

四月一日はまた面倒な説明を一からする必要があるようだと溜め息をついて話し始めた。

「だぁかぁらぁ、」

テクノロジーの話も織り交ぜながら次元の壁を飛び越えた旨を伝えた。
次元を本当に飛び越えたのかはまだ定かでは無いが、そう考えるのが一番手っ取り早いと踏んでの判断だ。
お陰で昼前だ。
話し終え、茶を啜る四月一日の目の前では目を点にしたリヴァイとハンジがいた。

「…えっと、…つまり、異世界人。」

「そーだよ!そーだっつってんだろ!よく理解できましたね!偉かったですね!」

やっと話が通じたと一息つく四月一日。

「信じられん。」

「…筋は通ってるよ、リヴァイ。
なら、ツバキの世界ってどんなせかいなの?
巨人はいないの?」

「…オレ様の世界にゃ巨人なんてもんは御伽噺でしか出てこねぇよ。
その代わり化け物じみた輩がいやがる。
殺しても死なねぇとかな。」

「こちらとはちがって技術が進んでるみたいだね、そのらへんは?
どんな事ができるの?」

「んー、そーだな、怪我は大して問題じゃねぇな。
軍服にな、破損したら止血してナノテクノロジーっていうちっこいちっこい粒子を傷に流し込む仕掛けがあってだなぁ。
そいつらが勝手に治療しやがるわけだ。え上半身だけに成ろうとも暫く生きてる。
まぁ死ぬ時ゃ死ぬけどな。」

あと兵士は脳をイジってあって痛みを感じない仕組みになっているのだがそこは割愛した。

「すごいすごい!それで!ほかには!」

「他ぁ?他…ねぇ…。
あ、馬だな。」

「馬?」

「此処のも割といい感じに品種改良してるが國津神の軍馬に比べれば全然だめだ。
まず國津神のはデカい。
力重視だからな。1tくらいなら悠々引きやがる、これまた化け物だ。
品種改良じゃなく遺伝子から弄ってあるってわけだ。
飲まず食わずで3日は走り続ける。
スピードは天津神より劣るな。デカいから。
天津神の軍馬は細っこい。
その変わり風邪の如く走る。」

「なるほど、確かに化け物だ。」

「巨人がいねぇなら何でお前は軍人なんだ」

それまで黙っていたリヴァイが唐突に問うた。

「そりゃ敵がいるからだろ。
オレ様だって何でオレ様達が戦争してんのかなんて知らねぇよ。
上層部のお偉いサンが敵を駆逐せよ、って命令だしたんだ。それに従うのが軍人だろーが。」

「ちょっとまって、まさか人間と戦争してるの?」

「あたりめぇだろ、コッチは確認できるだけでも世界人口70億越えの飽和状態なんだよ。
口減らしに戦争なんざ日常茶飯事だろ。
ガキも女も年寄りも、運の弱い奴が死んで強い奴が生き残る。
そういう世界なんだよ」

ここの方がある意味平和だ。
ヒト同士が殺し合うことも無いんだからな。

と、四月一日は続けた。

「なんだか、怖いね。」

「今世界で最も脅威の国はオレ様の属する國津神、それから隣国天津神。
今この瞬間も、世界を飲み込みながらどんどん強大になっていくんだよ。」

化け物みたいにな。そういって四月一日はまた笑った。





すすまねぇじゃねーか!
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