蹴散らすとはなるほどこの事を言うのかと認識させられるほど圧倒的な力の差で突然表れた男のような女のような取り敢えず顔のいい奴が巨人を蹴散らした。
それだけじゃない。
立体軌道装置を使っても追いつけないワタヌキとの見事なまでの連携プレーに目を見張った。

その可憐な顔からは想像もつかないほどに躊躇なく巨人を殲滅したあと、ワタヌキがそいつに渾身の力で体当たりするように抱きついた。
俺でも担ぐのに苦労した義肢の付いたワタヌキをそいつは軽々と脇の下に手を入れて抱き上げクルクル回りながら、どこ行ってたんですか?もー心配したんですよーあはははでも良かった、なんて笑ってやがる。
なるほど、男か。

一通りワタヌキを旋回させたら抱き留めて、なんか恋人とかというよりも親子的な空気が流れた。
ワタヌキもワタヌキで細っこい足をそいつの腰に巻きつけて首もとに顔うずめて、ガキみたいに抱き付いたまま花飛ばしてやがる。
見ててウザかった。 by リヴァイ





「先輩先輩先輩先輩先輩先輩!!
せんぱーい!」

「はいはい、大変でしたね。」

「月夜が来やがったらどうしようかと!」

「あの人は動きませんよ、今ぎっくり腰で寝てますから。」

そういや、内乱とか一番好きそうなのに出てこなかったなとふと思い出す。
ま、所詮変態クソ上司のことだ。
どうでもいい。

「四月一日、そろそろ木の上の彼らを紹介してください。」

すっかり忘れていたとでも言いたげな四月一日は抱きついたまま体をひねりリヴァイにこちらに来るように怒鳴った。
リヴァイが舌打ちする前に濃霧の怒声が飛んだ。

「四月一日!年上の方には敬語と低姿勢を忘れるなと教えたでしょう!
やり直しなさい。」

「はっ!?すんませんッス!
リヴァイ兵士長殿、及び先輩方!俺様の身内の林檎先輩が挨拶したいと言ってるんで、大変お手数かと思いますが此方に降りてきてくださいッス!
よっしゃー!!言えたぜ!
誉めてくださいッス!先輩!!」

四月一日が敬語(らしきもの)を使うところなど始めてみたリヴァイ班は絶句。
しかも腰を60°傾けて、だ。

四月一日の言葉にリヴァイを筆頭に全員が地面に降り立った。
因みにまた四月一日は濃霧の胸に舞い戻った。

「初めまして僕は國津神国国軍准将濃霧林檎准将です。
僕の部下であり義妹である四月一日を世話してくださったこと、大変感謝いたしております。」

問題児なもので、と未だ抱き付く四月一日の背中をポンポンと撫でる。

「調査兵団兵士長リヴァイだ。コイツ等は部下の兵士達だ。
気にするな。クソ餓鬼の扱いには慣れている。」

全員にニコリと笑いかければ男も女も童貞も、頬を赤く染めて濃霧に笑い返した。

リヴァイは、あぁ、これが噂に聞く魔性の何とかってやつか。と至極冷静に考えた。

「僕の扱いはどうなるのでしょうか、」

捕虜ならこのままトンズラこきますが。

「エルヴィン、…兵団の団長なんだが、ソイツに一任される可能性が高い。
あいつなら悪い扱いはしないだろう。
それに俺達はそこのクソ餓鬼に捕虜の扱いがなっていないと文句つけられたんでな。」

お前らの思ってる捕虜にはならねぇよ。

「ここの捕虜、拷問も陵辱も強制労働も無いんスよ。
つか捕虜飯結構旨いですし。」

「おやおや、心身共に健康な捕虜になれそうですね」

強制労働や拷問はわかる。
だが幾年も重ねていない少女から『陵辱』などということばがでるとは思わなかった。

それに四月一日を義妹と呼び、可愛がる濃霧もそんなことを聞いてもさも当然のように受け流す。
意味が分からなかった。

「兵長、移動した方がいいのでは?」

ペトラの一言によりまず森を抜け、本隊と合流することとなった。

「四月一日、貴女、馬に乗れたんですか。」

「失礼ッスね、先輩。俺達だって馬くらい乗れますよ」

まぁ遺伝子改良されていないオリジナルの馬は初めてですけど。

「先輩はオリジナル見たことあるンスか?」

「月夜将軍がオリジナルをコレクションしてらっしゃるので、何度かね」

オリジナルは遺伝子改良型に比べて、病気にかかりやすく、育てにくいので希少動物として認識されている。
それ故にオリジナル動物をコレクションするなど金持ちの道楽以外の何でもないのだ。

「月夜の野郎、金持ちっすね。」 

「結構ね。」

月夜は1LDKのボロいコンクリート部屋に住んでいるが、その私生活は堕落しきっている。
大量の私服(一着に無駄に金のかかっている)を持っていたり、気に入った幼女を拾ってきては自分好みに育ててみたりと、犯罪臭漂う生活をしている。
そして、小さな国が傾くくらいの金遣いの荒さが自慢の金持ちである。
すごい金持ちである。
最近の趣味は遺伝子改良されていないオリジナルの馬、のコレクションである。

濃霧は過去に奴の大量の通帳の一つをみる機会があったのだが、物凄い値段だった。
目玉が飛び出そうなほどに。

「いい馬ですね、…サラブレッド…ではありませんね
新種でしょうか」

「特別に品種改良してある。」

「なるほど。」

「そちらの馬もかわってるな、」

「ええ、遺伝子改良を少々、」

「おら、オルオ!美しかろう!林檎先輩だ!
崇め奉れぇぇ!」

「お、おう。まぁまぁだなっぐぉぉぉ!!!」

「てめぇ!オルオの分際で何様だコラァァァ!!!」

「ヤメロォォォ!!!髪ひっぱんじゃねぇー!!!」

「いいわよ、もっとやりなさい。」




ほかの奴らエルドとか空気。
みんな、空気。


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