文明の利器に塗れた母国から家畜のような生活をしている戦場となった国まで行くのには地球の裏側でも2時間位でお手軽に行ける。

大掛かりな作戦であったとしても家族が見送りに来ているなんて事はほとんどない。

ほとんどが所属する隊の皆と一緒に輸送機、または輸送車輸送船なんかに乗り込んでたわいのない会話をしたり明日ガキの誕生日なんだがプレゼントなにがいい?なんて事話て時間潰す。
そして上空からゴミみたいに投げられて、敵に見つからないように戦場に降り立つ。

そこからも大した心境の変化もなく、それでさっきの続きなんだけど、プレゼントどうしよう、まじで。とか言いながら任務を遂行。
帰還した足で子供の誕生日プレゼントを買って帰るなんてザラ。
そんな戦場が多かった四月一日にはこの壁外調査の仰々しさに目を見張った。

「なんじゃこりゃ、」

新兵の初陣ということもあり、泣きながら兵団の息子や娘を抱きしめる父親、母親。
願掛けなのか何かを父親に渡す娘と泣きそうな妻。
子供たちの羨望の眼差しと一部からの批判的な視線。
全てが初めて目にする光景だった。
そこ光景はいつものことなのか、皆普通にこれからくる絶望と恐怖に備えて震えていた。

「どうした、新人、」

珍しく黙っている四月一日にニヤニヤしながら話しかけてきたのはオルオ。

「…毎回こんななのか?」

「はぁ?」

「毎回こんな見送り多いのかって聞いてんだよボケナス。もういいよ、お前みたいな童貞。死ねよ」

「なんだとぉ!?てめぇ!」

「そうだ。」

四月一日の問いに答えたのはリヴァイ。

「そうだがなんだ?」

俺様のとこじゃこんな見送りなくてね。
なんて話をしながら目に付く絶望と希望の混濁した人々の表情。

なんか、新鮮。

そう呟いた後は暫く悲しみに暮れる人々の表情をみていた。

嫌な予感がするよ。




予感は的中。
突然のスコールで周囲が全く見えなくなった。
巨人の発見が遅れ、陣形がバラバラに崩れていく。

「エレン隊員、生きてるかいな」

軽口を叩きながら隣に目を向ける。
今回が初陣で三日間の訓練で仲良くなったエレンに声をかける。

「馬鹿にすんなっ!これっくらい!」

「喚くなよぉ、ほれ、エレン隊員、深呼吸して楽しいことでも考えろ。
帰ったらミカサにベロちゅーしてもらえ、な、」

ニシシシと笑う四月一日の顔に恐怖や絶望は無く、寧ろこの状況を楽しんでいるような、そんな顔をしていた。

さすが、戦慣れしているだけのことはある、とリヴァイは静かに考えた。
戦慣れという言葉だけでは済まされないような、そんな異様な雰囲気を醸し出すこのワタヌキという少女。

「…ベロちゅーってなんだよ、」

「え?」

気まずい沈黙のあと、四月一日が説明し始めた。
ただ、四月一日は致命的に説明が下手な人種である。
オノマトペですべてを説明しようとするのである。

ベロちゅーって…ベロちゅーだよ。
こう、ベロベロちゅーみたいな。

意味分からん。

ディープキスのことだよ。

ないす!ペトラ!そうだ、エレン隊員、ディープキスだ。

んなっ!?しねぇよ!

なんだなんだ、お前も童貞か?
オルオの仲間か?
オルオはちょっと戸惑うけどエレン隊員なら俺様許容範囲だぜ。
よし、帰ったらベッド直行便な。

後ろで卑猥な会話が聞こえてくる。
そしてオルオ可哀想。
男性陣は黙りこくる中でペトラと四月一日がズッキュンバッキュンと放送禁止用語を多用している。

ペトラよ、お前もか。
そんなことを思いながらリヴァイ班はスコールのなかを突き進む。

今回の目的は領土奪還の拠点を築くことである。

だが恐らく無理だろうと四月一日は踏んでいた。
雨の中巨人がどのように動くのか全く分かりはしないのだが太陽が出ていない分、動きが鈍いだろうと予測はするものの、人間にも不利であることは間違いない。

足場が滑りやすければ必然とスピードが落ちる。
煙弾も分かりにくい。

これが奇襲なら最高の天気なのになーなんて考えながら四月一日は慣れない馬を走らせた。

すると左側から煙弾。

普通種がいるらしい。

ここで四月一日が指揮をとっていたなら当たって砕けろよとでも叫びながら巨人のつむじを削ぎに行くところだが流石、エルヴィンは考え方が大人。
逃げるという項目を選択する。 
一番賢いが、なにせ、目立たない。
派手好きの多い國津神ではバッシングの嵐が降り注ぐだろう。

「あー、…腹減ったなぁ、」

どうもここの食事は質素でイヤになる。
知り合いに元殺し屋の神父がいるが、ソイツの食卓に並ぶ自称質素な食事よりも断然質素である。

育ち盛りのエレン隊員達にはキツいんじゃないかと思うほどに。

そんなことを考えているとまた煙弾。
奇行種か。
左右から挟まれてんぞ。
おいおい。大丈夫かよ。





辿り着いたのは草原。

生憎の雨。

晴天ならば美しいであろう草原を見つめながらフード被り直す。

出発前に言われた事を思い出す。

『転送先と此方には時間の流れに差があります。
此方での1ヵ月があちらでは恐らく21日ほどです。
将軍転送後、再度システムを起動させるのに
1カ月掛かります。
そのあいだ、どうかご無事で。
通信は通じませんが懐中時計にタイマーをセットしておきました。
あちらは雨天です。御武運を、(have a god)』

そして彼は光に包まれて浮遊感を感じ、足が地面に付いたと目を開ければそこには雨に濡れた草原。

早急に四月一日を回収しなければ。
アレならどんな状況でも意地悪く生きているだろうし合流すれば1カ月くらいどうにかなる。

連れてきた愛馬に跨がり人の気配を探るが誰もいない。

しかし気配を感じられる範囲を超えた遙か彼方に煙がみえる。

「…火事?」

しにては小さい。
人工的なものならば頗る原始的な手法だが狼煙のようなものだろうか。

彼、濃霧は煙に向かって馬を走らせた。





四月一日は使いにくい立体軌道装置や兵団の団服などは身に付けていない。
此方の世界のものといえば馬くらいである。

「巨人が一匹巨人が二匹、そして兎が一匹」

スコールのなか、巨大樹の森とやらに陣形の中央が突っ込む形で走っている。

「数えんなよ」

「いやぁ。暇でさ。」

「ほぅ、暇か。
なら後ろの囮にでも志願してこい。
あわよくば食われろクソ餓鬼。」 

「やだよぉ、イタいのやだぁ」

逃げるなんて性にあわないのだが、長年のカンでここは大人しく逃げた方がいい気がした。

というか気分が乗らないのだ。


「オルオーてめぇ囮いけやー」

「はぁ!?お前ふざけんのも大概にっガチン!!」

オルオが舌を噛んだ。

「あんたそろそろその舌噛むキャラ辞めなさいよ」

ペトラからの辛辣なツッコミを受け止めるオルオを横目に森を縫うように走る。
一番前をリヴァイが先導し、真ん中に四月一日とエレンを挟むようにリヴァイ班が走る。
悪い視界が余計に悪くなる森の中。
ゾワリ、と言いようのない寒気が背筋を走り、とっさに右手でエレン、左手でリヴァイ、体でリヴァイ班を馬から引きずりおろした。
地面に叩きつけられることとなった面々が呻く中、一人だけ受け身を取った四月一日は流れるよな動きで太股のホルダーから拳銃を取り出し安全装置を外して撃った。

念の為、没収されている武器の中で隠しやすいものを幾つか拝借してきたのだ。
断じて盗みではない。

それは奇行種だった。

「起きろ!逃げんぞ!」

木に登れ、と声をかける。
拳銃は実弾、そして殺傷能力の高い爆破弾で目標に命中すると爆発する。

三体を仕留め、リヴァイ班が立体軌道装置で木に登ったことを確認すると四月一日も義肢を駆使して木を登り始めた。
言わずとも援護してくれるリヴァイに若干の感謝を覚えつつ登りきるその時、目の前にきていたペトラの悲痛な叫びが木霊した。

「あー…くそ、最悪。」

15mは下らない巨人が四月一日の右足を捉えたのだ。

ギチギチとイヤな音が鳴る。

エレンが手を伸ばす。
ペトラが手を伸ばす。
オルオも一応手を伸ばす。

リヴァイがこちらに来るのを横目で見ながら、そのどれも取ることなく四月一日は登りかけの木から体を離した。

「ワタヌキ!!」

四月一日を掴もうと延ばされる巨人の手を銃で打ち抜き、弾切れのそれを捨てて、義手の左手で上顎を殴り潰し巨人の口内の義足を下顎に打ち付け、口を開かせる。

「どうよ、世界一の義足の味はぁ!!うまいだろ!」

ブーツがもがれたその黒い義足には変形も疵もなくただ黒い曲線美を描きながら巨人に最後の一撃の蹴りを食らわせた。
未だ他の巨人のいる地面に生きて降り立った四月一日は残りを蹴散らすため新たに銃を構えた。
しかし木々の向こうに見慣れた青い髪を発見し、我が目を疑って、それからニンマリ笑って武器をおろした。
ちっこいおっさんにも武器を下ろすように言っておいた。

…あの人は武器を向けられることを嫌うから。

上から武器下ろすな!死にてぇのかと童貞オルオが叫んでいる。

「馬鹿め。もう俺様が戦う必要ねぇよ。」

呟いた声は銃声にまみれて届かない。

「助太刀した方がいいですか?四月一日」

「お願いしますッス。先輩」

漆黒の軍服に整った美しい顔。
背中で跳ねる深青の髪に月の簪。
そして彼の主しか乗せないと有名な馬。
そして50口径の二丁の拳銃。

林檎先輩がその場に現れたとき、激しく降り続いていたスコールが止み、太陽が姿を表して彼を一層美しく輝かせた。雨に濡れた先輩、カッコ良すぎ(四月一日の手記より)




りんごちゃーんいらっしゃーい!(^^)!
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