「…つーかさ、ココ、兵士少なくね?」
全体練習に参加していた四月一日が誰に言うまでもなくボソリと呟いた。
「そりゃ万年兵士不足なんだから仕方ねぇだろ!」
リヴァイ班の誰か…えーっと、たしかオルオが独り言に口を挟んできた。
「兵士不足?んなもん徴兵制度どうしたよ?
来ないんなら無理やりつれて来いよ。カミさんでもガキでも人質にしてよ」
「なんだよ、その悪逆非道の徴兵制度。」
四月一日の母国、國津神の徴兵制度を恐怖の対象として見られた。
「悪逆非道?当たり前だろうが。
兵士不足なんて戦じゃぁ死活問題だろうがよ。
どうせ本国攻撃されりゃぁ死ぬんだ。無駄死にもしくは犬死にって言われるやつだ。
それなら国の為に死ねってんだ。」
「…滅茶苦茶だな、おい。」
「ま、馬乗って舌噛んで、戦場で漏らしてるオルオでもきっちり仕事出来るようになってんのさ。」
薬漬けにして自我無くすんだからな。
とは言わなかった。
「無駄口叩くなクソども。」
「了解ッス!チビ兵長!」
「おまっ…兵長になんて事を!」
「…ワタヌキ、後で躾てやる」
「ワォ!良かったな!オルオ!」
「俺!?」
馬上で揺られながらの会話。
四月一日は大体文明の利器であるバイクや装甲車、戦車や軍機を移動手段に使うことが多かったので乗馬という経験は士官学校以来であり、気分が高揚している。
しているのだが、
「…尻イタい。」
そう、この世界の人間にとって当たり前の移動手段である馬。
長時間乗り続けることになんの苦労もしないのが当たり前なこの世界の人間達。
四月一日はこの世界の人間達ではない。
つまるところ、腹筋、腰から尻から太股までの倦怠感がハンパない。
分かりやすくいってやればセックス後、みたいな。
「へーちょー腰から下が情事後のように痛んでるッス。
抜かずに連続五回ヤったぜ、みたいな妙な達成感があるッス。」
「ひぃ!?てめぇ!なに下品なこと抜かしてやがんだ!」
リヴァイに話しかけたのにオルオが答えた。
「あ?その拒絶反応、さてはお前、童貞だな。
ペトラー、貰ってやれよ」
「いやよ。
こんなのとするんなら巨人の口に飛び込むわ」
「お前ら鬼畜か」
「鬼畜じゃありませんー。
女の子としての率直な反応ですぅ、オルオ先輩」
「こんなときだけ先輩言うな!」
そのすっとぼけた会話をしている三人をみて、リヴァイが前方を向いたまま一言、
「…ワタヌキ、テメェはマせガキだったか。」
「上司がヤ●チンなもんで。」
「なんだ、ガキよ。
お前の世界ってのはその、」
「んー、ヤリ●ン多いな。男も女も。80越してもまだまだ腰振ってるぜ。
元気な爺婆だ。
あとチビの真似似てないから。」
「…」
オルオのなんとも言えない顔を見て四月一日は至極冷静にああ、こいつほんとに童貞だな。と再確認した。
「ワタヌキ、ほんとに黙れ」
と言ったのは確かリヴァイ班の、そうだ、エルドだ。
「なんだ。テメェも童貞か?」
「お前の判断基準は其処なのか」
エルドの呆れたような声に四月一日が瞳孔を開く勢いで叫んだ。
「当たり前だ!
女の価値は男の質だって長門将軍が教えてくれたぞ!」
長門とは四月一日のもと上司。
そして80の老体にも関わらず前線に立ち、その美貌で未だに男を誑かす女将軍である。
全盛期とは比べ物にならないがそれでも侍らせる男の数は尋常ではない。
「何、その間違った性教育。」
リヴァイ班の面々に植え付けられた印象、異世界はお盛んな人多い。
「…所変われば常識も変わるってことだ。
だが矢張り下品なガキはよろしくねぇ。
躾直しだ。」
リヴァイの締めの一言により、訓練は終わりを告げた。
ヤバい、頭に入らなかった。
頭には入らなかったがわかったことがある。
このエルヴィンの考案した陣形、長距離索敵陣形という奴はよくできている。
脅威である巨人に極力近づくことなく目的地に向かうのに有効だとも思う。
しかし、よくできているからこそ、分かった。
これは、この戦いは、負け戦なのだと。
四月一日の旧式兵器コレクションにあるようなちゃっちいライフル。
遺伝子改良の成されていない、限界のある馬。
恐怖を麻痺させるでもなく痛みを軽減させるでもない兵士。
発達してない通信機器。
それらにくらべ、飲まず食わずでも100年生きる巨人。
どう贔屓目にみても理不尽なほどの力の差がある。
四月一日は完全なる敗北を経験したことがない。
天津神との戦で負けたことはある。
しかしそれは完全な敗北ではない。
人口の98%は生きていたし、領土が侵されることもなかった。
こちらにとっての痛手とは賠償金位のもの。
金ですむ負けしか経験したことがないのだ。
逆に完全なる敗北を他国に経験させたことはある。
民間人まで虐殺して戦争孤児やら難民やらを大量に生産したものだ。
彼らのその後を考えたことは無かったがこの世界の人々に似ているのかもしれない。
自己暗示かけながら希望とかいう幻を夢見て何もわからないからと好奇心から外へ出る。
そして死んでいく。
いつでも自分は捕食者だった。
弱者をなぶり殺しながら笑ってた。
それがどうだ。
いまは餌の側についている。
愛用の武器もない。
「なんだろうなぁこのモヤモヤは。」
いいようのない不安。
そしてどうしようもない高揚感。
◆
つばきたん、つばきたん、早く壁外行こう。
話が進まないよ。