いつかあった夢の話
「ぶんそくー、陣痛来た...っ」
『難しかろうがあと少しで着く。耐えよ』
「...っはぁ、い...っ了解っ」
いろいろ大変だしということで入院してから2日後少し予定日よりも早く来た陣痛は、遼や呂布の腹パン以下ではあるが少々唸らざるを得ないくらいの痛みを私にぶつけてきた。数ヵ月前に双子ですねと笑いながら告げてくれた産婦人科の先生に携帯を持ってもらいながら、退社寸前だった文則に現状報告。
なんか、微妙、陣痛ってもうちょいぎゃあぎゃあいうものかと。お腹の中は相当大変なんだよなぁと思い至って噛みしめる力を強くする。おーしお母さん頑張るからねー2人ともがんばってねー
子供に関する作業をやたら手伝いたがった文則のおかげであんまり何もしていない。それどころか聞きつけた曹操さんや同僚のホウ徳さんという方から出産祝いまでもらってしまい、立場的にも難しいだろうに文則を定時に上がりやすくしてくれたのだそうだ。何という至れり尽くせり。本当に申し訳ないながらもありがたい。
思っていたほどじゃない痛みに安心しながらもぼんやりいきんでいたらナースさんと水色一色の服装の男が入ってくる。あ、文則だ
「お父さん到着されました!!!」
ナースさんの言葉がやけに鮮明に聞こえたのと同時にペットボトルとストローとなぜかテニスボールを持った文則が現れた。え、何でテニスボール。あ、お水はありがたい。前髪が全部帽子に入ってるのが可笑しくて緊張がほぐれた。
「ふ、う...・・・っなんでぼー...っ」
「夏侯淵殿が、息子の出産のときに使ったと」
「あー確かに陣痛抑えるときに使ったほうが良い人いますからねぇ
お父さんはお母さんの枕元にいてあげてください。水分補給も、お願いします」
「承知した」
ガッチガチだ。プルプルしてるの気のせいかな。ストローを向けられてありがたく頂戴するお水。
ふぅと息をした瞬間、にじくりとした痛み
「き、たきたきたきたきたきた文則お願い手ぇ握っててお医者さんこれ頭出てますよね!!」
「出てる出てる。あ、エコーの準備しといて」
「わかりました!!!」
走り去るナースさんを見送りながらうぐぐぐといきんでみる。あ、来た。
「ひ、とり、目出ました!!!!」
で、た、え、ほんとに? 少し軽くなった感じのする体。耳を劈くような鳴き声の後すぐにエコーの器具を当てられた。「たまにここで逆子になる子いるんだよねー 本人としちゃ部屋広くなってわーいくらいの気分だろうけどねー あ、逆子になったらお腹切るから」と穏やかに話すお医者さん。あ、お父さん臍の緒切ってみる? という言葉に反応して枕元から離れる文則。レクチャーを受ける声の後にジャキリと物を切る音。その後グラム測っていろいろされてから帰ってきた我が子を抱きかかえる。体重的に問題なし。ガタガタする手でカンガルーケア。がんばれ私、そして私以上に手を震わせてる文則。うわ血まみれ。
「おー...げんきげん、」
き、まで言いたかった。バチンッと何かがはじけたように途端に痛み出すお腹。
「文則持ってて!!」
潰しちゃたまらないと文則に我が子ギリギリ手渡した瞬間に襲う先ほどとは非にならないほどの痛み。
ああもう文則の現状がすごく見たい! けど我慢!!!
全力で行きますとばかりに出てこようとする二人目。どうやら通常よりも早く出ようと子宮内でモガモガしているらしい。ちょ、けってる。おなか蹴ってるってばいたい!!
「ううううぐうああああああああ痛い痛いホント死ぬいたいぃいいいぃぃぃぃぃ!!!!」
「縁起でもないことをいうな」
努めて冷静になろうとするような、文則の声が聞こえてちらりと見れば息子をナースさんに無事渡し終えたらしい文則が再び枕元にいた。ちぇ。
「下手な言葉を言って後で恥をかくのはお前だぞ」
「っは?」
もう片方の手に握られていたものを見て愕然とする。え、ビデオカメラ!? 似合わな、じゃなくて何で!!?
「義母殿に頼まれた。自分のお産の時と比べるそうだ」
「あんのくそばばぁああぁあぁぁぁぁぁああああ!!!」
「お母さん頭出てきたからちょっと言葉抑えようか!!!」
頭、そっか、なら頑張らないと
「ううううううううううううううあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
再び聞こえる叫びにも似た鳴き声に全身の力を抜く。2人目の臍の緒も文則が切って、2人そろって再びカンガルーケア。終わった? っぽいなぁ。
「はい文則」
「何だ」
「何だじゃないよ抱きしめてやんなって...せっかく2人とも頑張って出てきたんだよ?」
少し眉間にしわを寄せて、では、と2人目を抱きかかえる。様になっているのは熟読していたたま○クラブとかのおかげだろう。
「小さい」
「いつか文則並みに大きくなるのかな どうする? 2人そろって親父ちっさとか言い出したら」
「子供の成長は喜ばしいものだろう」
「ふふ、そーだねー...」
寝だした1人目を抱きしめて小さな手を触ってみる。お、握った。
「これからよろしくねお父さん」
「...ああ」
いつか会った夢の話
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