初バッジと未知の世界

「すーばーるくんっ 頼んますぜいっちょ」

『それはセリフのことか試合のことか』



どうぞお好きに、弔い戦だぁぁぁと闘志を燃やすヤナップを見ながら隣でゆるく体を揺らす昴に声をかける。ジャブですか旦那。



『やってやるぜぇぇぇぇ!!!』

『はぁ・・・まあ、やるか




可愛がってあげよう』


「ファ!!?」

「どうかしましたか?」

「ああいや、何でもないっす!」



あっぶねぇぇぇ、え、てか、昴君? 最初のエンゼルスリーピングビューティーどこに行からはりました? そんな黒い子なの? そっちが本体? と思ってたけどなんかしっぽが不安げにゆるゆる動いてるから違う、っぽい・・・誰かのまねかな?



うん、ならいっか!



昴は正直動きが遅い。その代わりスタミナ勝負と白兵戦が強い。普通なら多少のリスクは承知でさっきの千陽戦みたくおびき寄せてカウンターという手もあるが・・・芸がない。同じ手くらっちゃデントさんも面白くないよね、ってことで適当に考えた策としてはガチンコ勝負、最初に言ったブルートフォース作戦。技と技のぶつかり合いのなかの勝利。華としては上々だと思う。


降り注ぐ“種マシンガン”を華麗によけるも、ピシィと地面を叩いた“蔓の鞭”は昴の肩を掠めた。“蔓の鞭”のほうが若干早い? なら避けるのは下策かなー



「すっくん鞭つかんで引き寄せてボコーン・・・とか行ける?」

『楽しそうだな・・・やってみる』



一度の指令で3回ほど振り下ろされる鞭を少しだけ体を動かすことで避ける昴、最後の一撃と力の籠ったそれを握りしめて思いっきり引っ張った。



『ふっ』



ドゴッ



回し蹴り、まさかの回し蹴り・・・昴君の小さな体がくるりと回ったと思いきやヤナップの細い首を捉えて吹っ飛ばした。土煙が威力の強さを語る。頭の中で鳴るゴング、決まっ・・・たか? と思った刹那、ゆらりと影が土煙の中で揺らめいた





「昴バック!!」



一瞬、コンマほど遅れて対応する昴、でも遅かった。土煙の中から正確無比に発射された“種マシンガン”、さっきより早い!


『っく、ぅ』

「昴!!」

『・・・問題ない』



なんという不明、思慮の浅さもうちょいどうにかならんのか、ヤナップの特性の内の1つを考えるところまで詰めるべきなのかジムバトル!



「“しんりょく”・・・っ」



正解とばかりに頷くデントさん。畜生楽しそうな顔しやがって!



「この一撃に全てを賭ける! 行くよすっくん! “起死回生”!!!」

「ヤナップ、“蔓の鞭”!!」



技同志がぶつかって、さっき以上の土煙がたつ。げほふっ。何とか目を開けて衝突場所を見れば小さな影がぐらりと揺れて倒れた。




「ヤナップ戦闘不能! よって勝者、チャレンジャーヒサナ!!!」



旗がひらめく、無表情に立つ昴はどこか悔しそうだったけど、トコトコこっちに来て「勝ったのか?」と問う昴の手を握って視線を合わせた。



「ごめんっ!!! あとありがとう!!!」

『いや、さっきのは俺の油断だ』



フォローすなぁぁぁぁ今猛烈に自己嫌悪中じゃいぃぃぃ!!! 後ろでポカンとしてた千陽を引っ張って2匹に抱き付く。



「ほんっっっとうにありがとう!」



最初はノリと勢いで押せ押せやってたけどぶっちゃけ緊張で足が震えていたのだ。仕方ないと許してくれたまえ!



「驚いた、君すっごく強いんだね・・・」

「そんなことないです こいつらのおかげです」

少し震える声で話しかけてきたデントさんに言葉を返す。「いえいえ、本当に強かったです」と話すデントさんは紳士か、



「これをどうぞ、」



デントさんの掌で輝くそれをがちがちの指先でつまんで受け取る。バッジだ。バッジだ。



「ジムバッジはトレーナーの強さの証です
あとこれ、よろしければ」



渡されたのは紅茶のなみなみ入ったカップとクッキーの入った袋、



「バトル終わりの一杯、どうぞ心行くまでお楽しみください」

「っありがとうございます! いただきます!!」



受け取って、2、3言葉を交わした後に試合場を後にして、さっき座っていた所に戻って少し冷ましてから一口。場所的に「かぁぁぁああうめぇ!!!」とか叫べないから何とか抑える。



『嬢ちゃん』

「はいはいなんじゃらほい」

『わしな? この先は未知の世界なんよ、なんも知らん、
じゃから、改めて、これからよろしくなヒサナちゃん!』

「おう! よろしく千陽君!」



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bkm