感謝祭作品 | ナノ
「やはり美しい....私に花に触れる許しをくれないかな?」

「花瓶に飾られた花ならどうぞお好きに、匂いをまき散らすだけの野花になぞ興味はありますまい」




向けられた口説き文句を断って、大騒ぎをする数人を遠目から眺める。隣に立つ美形にお近づきになりたい方々もいるだろう誰かこれ持っていってくれないかなぁなんて思いながら隣でにこにこしている郭嘉殿に目を向けた




「なまえ殿、あまりお酒が進んでいないようだけど」

「不得手、まぁ苦手でしてね、匂いからして好きではない」



だから酒飲んだお前はどこかに行けという意味合いを込めてみたのだが避けられる。まぁ私も断ったり避けたりを繰り返しているため人の事は言えないけど。似た者同士に近いかもしれない。



「残念だ、酔ったあなたを介抱したかったのだけど」

「酔ったことがないので分からんが酒乱かもしれません、色男の顔に青痣など作りたくありませんので止めたほうがよろしいかと」

「それは恐ろしい、怪我をせぬよう心掛けなければ、ね」



意地でも持っていく気だ。介抱する気だ。なんとまぁしつこい。




「郭嘉殿ならば、もっといい相手がおりますよ........今日は1人で部屋に戻ります、では」







帰るべく、足を動かす。踏み出そうとした6歩目が、唐突に掴まれた手で阻まれてしまった。




「か、くか、どの?」

「今少し、と思ってはいたのだけれどね、無理、もう、無理だ」



1回目は断言するように、2回目は何とも惜しそうに呟くものだから驚いた。固まってしまった。引っ張られる手を半分享受して廊下に出る。宴の部屋の明るさが残念な光だったのだと気付くくらい綺麗な月が見えて、目がそっちに向いてしまう。



「月が優先、か.........、貴方らしいけれど少し残念かな」

「あ、申し訳ない......が、部屋には1人で帰ると言ったのに、踏み込むのは野暮だとは思いませんか?」

「万策尽きてしまったから、愚かな男の最後の手段だと笑ってほしいな」



笑えるなら苦労しない。ずい、と近づく郭嘉殿を避けるので精一杯なのだ。先ほどの、女を誑し込ませようとする色男の顔は何処に行ったのか。月明かりに照らされて見える郭嘉殿は、戦況をねめつけながら思考を張り巡らせる軍師の時の顔をしていた。



「ち、近いですよ、かくか、ど」



言葉を人差し指一本で止められる。唇に当たる感触がぐらりと頭を揺らすようで、思いっきり、大きく後退すれば後ろは石柱だった。



「本気で、貴方がほしいな、抱きしめる相手として」



一歩、近づく足にみっともなく怯える自分がいた。



「愛おしむ相手として」



頤にかけられた指の冷たさに小さな悲鳴が上がった。最悪だ。弱みを掴まれたような気分にふとそう思った。




「私の時間を捧げる、ただ1人の女性として」




耳元で囁かれた言葉に、何がつまっているのかなんて、私にわかるようなものじゃなかった。