感謝祭作品 | ナノ
これの昔話








18時、19分.......


学校の天辺に付いた時計を見て、今の時間を知る。膝を抱えて、ぼたぼたと涙をこぼす目を乱暴にこすって、あの時計が18時30分以上を刺すのを待つ。
最終下校時間をあの于禁先輩が破るわけがないから、それまで見つからないようにしなければいけない。私の頭はそれだけ考えていた。



今、私は先輩から逃げているのだ。いや、隠れまくってるんだけど。



もっさりと視界の大半を覆う緑の葉っぱがとてもありがたい。現在、校舎よりも高い銀杏の木の真ん中辺りで隠れている。見つかりにくいし、先輩が登ってくるわけないし、いや、奴が登ってくる可能性が十分にある、てか揺らしそう。うわなんか怖くなってきた。





「場所変えよう」





うん、そうしよう。体育館裏とか、あそこたまに先輩と同年齢のヤンキーいるから嫌なんだよね、まぁ私も少し前まであんなんだった、のか? いや、あれほどじゃない、タバコ吸わなかったし、







足を枝に引っ掛ける。数本足で探って降りて行って、さて次の枝、と視線を真下に向ければ










そこにはこっちを一直線に見る先輩がいた。





「....................やぁんえっち」

「スカート下にジャージを履いている者が何を言う、いいから降りてこい」

「やだ」

「揺らすぞ」

「わ、馬鹿やめろ馬鹿先輩!!」

「馬鹿に馬鹿呼ばわりされる言われはない。早に降りてこい」

「........怒ってるから、やだ」

「怒らせたのは誰だ」




私だ。解ってる。言葉をつまらせて、じっと動かないでいる。下で先輩がため息をついたのが聞こえた。ああもう、うざがられた。絶対そうだ。



「アレのことなら気にするな」

「やだ」

「あの程度些末事だ。お前の気にすることでない」

「っやだ!」




大きくなる声。
さまつごと、がなんだか知らないけど、ニュアンスでわかった気がする。私にとっては大きな理由。先輩の同級生が、私が関係する先輩の話をしていたのを聞いてしまったのだ。私が色目使っただの、先輩が私にお仕置き(多分意味はゲスい)してるだの、内申点稼ぎだの、思い出しただけでイライラする。



「あいつらにも.......言い返せなかった自分にも腸煮えくり返ってんだよ! ほっとけ馬鹿于禁!!」



涙声で叫んだ。先輩に見せる顔がなくて枝の上でしゃがみこんで動かないでいる。動かないままでいれば諦めてくれるかなんて小さい期待もして、






「世話のやける奴だ」






ギリギリそんな声が聞こえた瞬間、木が大きく揺れた。



「う、わっ」



急な浮遊感と、次の瞬間にはがっしりと全身を掴まれている感覚。とっさに瞑った目を開ければ目の前には先輩の顔があった。片腕で抱えられてる。ぷらぷらと動かす手のひらの裏が赤い。殴ったのかと気づいた頃には地面に下ろされていた。



「言い返せば立場が悪くなるのはお前だった、私にはその方が何倍も堪える」






だから気にするなと、頭を撫でて言う先輩に胸辺りがぎゅうとなって、柄じゃなく、これが恋愛というやつか、なんて思った。