感謝祭作品 | ナノ
「ち、んきゅう、どの、?」



ああ、怯えておられる。まぁ私が、私がそうさせたのですが。
狭いところが落ち着く、と言うなまえ殿が棚の間に座って書簡を読みふけていたところを発見したのは数刻前。呂布殿や張遼殿おして脳筋、いえ武力が一番と考える方々の多い軍内でも珍しいことに、なまえ殿はよくここにいらっしゃる。

向かい合わせで片膝をついてしゃがんだ私に気づいたなまえ殿の顔が、こちらを向くよりも早く腕を動かせば、いとも簡単に囚われてしまったなまえ殿の出来上がり。もっと早くやってしまえばよかったと思う反面、磨かれ煌く宝石に刀を向けるような罪悪感もあるのです。



「陳宮殿、わたし、なにかしまし、た、か.....?」




私の目の前で、正確に言えばわたしの両腕の間でゆらゆらと揺れた声をだすなまえ殿。目線は同じ位置なのに何が怖いのか、ああ、男慣れしていないのでしたか、私としたことがこれはこれは。



「いえ、いいえ、なまえ殿は何も、何もしておりませぬ、ただ私がこうして見たかっただけなのです」

「してみたかったって、こういうのは、その、私のようなものにするのは些か、誤解を生むので」

「誤解、誤解ですか、それは僥倖!」



僥倖。まさにそれ、私としては笑ったつもりなのですが何故か、なまえ殿は少々怯えの色を濃くしてしまいました。なんとも愛らしい。私のようなと軽視するなまえ殿ですが、私にとってはなまえ殿にこうしたいと、どれだけ願ったか、なまえ殿は知る由もない。それでいい、それでいいのです。ですが、少々私には我慢できなかったようで、私もまだまだということですな。



「さて、この状況をなまえ殿はどういたしますか?」

「.......へ、?」



いつものなまえ殿らしくない、気の抜けた声が出たものです。す、と顔を近づけてみれば途端に赤くなる顔が私の理性も何もかも突き崩してしまうと、この方は知っているのか知らないのか。ふむ、



「なまえ殿がこの私を厭う、厭うのであれば安々と蹴飛ばせましょう......されど、このままなまえ殿が動かぬのであれば、」



恍惚と興奮で震える手がなまえ殿の頬に触れる。それだけでなんとも、なんともおかしな気分になるものです。母音のみをこぼす口に親指を触れさせて、なぞる



「ここに近づく権利を得たと、思ってしまいます」



耳まで赤くなったなまえ殿の手が、ゆっくりと私の袖を掴みました。子供が親の服を掴むような、そんな力で。なまえ殿らしからぬ、といつもならば思うでしょうがこれは、いけない。




「い、いい、て言ったら......どうしますか?」



上ずった、今にも消えそうな声でつぶやくなまえ殿の目が潤んで光る。薄暗いこの部屋でも分かるほど艶めく目には、情欲の色が見えました。


ゆっくりと、持つ袖の範囲を拡大させていくなまえ殿の唇が触れた際、やっと、やっと私は気づいてしまったのです。軍師としてありえぬ失敗。







ああ、囚えられたのは私でしたか。