感謝祭作品 | ナノ
ああ、ゆきがふる











目が覚めたのはきっと、胸に顔を埋めるこの人のせいだろうと思う。
横向きに寝る私の腕の中に無理やりねじ込まれた筋肉質が、嫌らしい意味でも面白おかしい意味でもなく顔面を女である私の胸元に押し付けている。さほど大きいと言う自信はないが、それでも苦しくはないのだろうか。聞いてみようと、ふさり動いた髪の毛を撫でながら眠気混じりの声で問う。



「文遠さん文遠さん、そこは苦しかろう」



「........くる、し......」



もごもごした言葉が聞こえて、ああ起きてるのかと思った。苦しいか、そうか、そうなら離れればいいのに。少しきつくなる腕の力にうぐぐと呻きながら強くなる疑問は聞かないでおくことにした。
外から青鈍色の光がさして、白い布をその色に染めている。刻を考える。そろそろこの人の起きる時間ではないかと思い至った。ああ、でも、この人に起きる気力があるのだろうか。まぁ、身体的な、目覚める的な意味の方ではなく。



「文遠さん文遠さん、まだ夢の世界かい」



掛けた声に、びくりと文遠さんの体が揺れた。驚いたというか、膝を叩いたら無意識にそうなるような、そんな揺れ方だ。少し離れて、やっと文遠さんの顔が見える。いつもの無表情、が、少しだけ歪んでいた気がした。



「..........夢だったのか」

「あれ、さっき返事したよね、二度寝でもした?」

「......そんなところ、だろう」



距離が詰められて、またもや顔面が胸部に沈む。おいおい、さっき苦しいって言ってたくせに、またそんなことをするのかい。え、なに? 苦しくない? だってさっき苦しいって言ったじゃないかと会話を続ければ、黙る文遠さん。離れて、腕が離れて、体を動かす文遠さんに、やっと起きるかと自分の体を起こそうとすれば、引き摺り倒されて今度は私が文遠さんの胸に沈む番だった。ぎゅうと締め付けられる腕の強さは、恋い慕い合う男女間で行われる、「掻き抱く」くらいの強さだ。痛みを伴うほど強い抱擁だが、彼にとってはそう強力なものではない。そんなくらい。



「まだ、いいだろう」

「よくないよ、苦しい」

「すまぬ」

「いいけどさ」





そんな短い会話をした後文遠さんは、ぽつぽつ語った。



雪が降っていたのだと。たくさんの水が、冷たいそれが、雪と混ざって自分を溺れさせようとするのだと。沈んでいくのだと思って、掴んだそれがいざ目覚めて見れば私だったのだ。そう、語った。





「少しの時でいい、ここにいてくれ、私は、今少し、そなたとこうしていたい」





そうか、そうか、頷いて、其れならしょうがないと抱き返す。







背の高い、大きな体躯の文遠さんが、置いてけぼりにされた幼子に思えた。