感謝祭作品 | ナノ
「いい加減へそ曲げんの止めちゃくれねェかねお嬢ちゃん」



へそを曲げているわけではない、と、断言できればどれだけよかっただろうか。ベッドの上で、後ろで胡坐描いて私の機嫌が直るのを待つ“お兄さん”は、どうにも面白がっているというか、そんな雰囲気があった。何がそんなに面白いのか、半分分かってはいたので聞くような真似はしない。これでも慣れっこなのだ。職業上。遠くから姐さんたちの笑い声が聞こえる。





「私、そんな風に見える?」

「見えるさ、女のご機嫌取りは得意でね」

「嫌な人」

「海賊だからなぁ」

「そうね、明日には出て行っちゃうんでしょ」

「知ってたのか」



からから笑う、声がした。ゆっくり振り返ってにやついた憎たらしい顔と目を合わせる。頬を撫でる手に従ってお兄さんの腕の中に埋まる。愛しい人を抱きしめるような抱擁。こうして抱かれた女の量を想像で数えるようなみっともない真似はしないけれど、その全部が私ならよかったのにくらいは、思う。



「可愛いねぇ」

「私たちみたいなのは可愛いくて当たり前なの、」

「御見それした、が、あんたは一等可愛いよ」

「そ」



腕を回してしがみ付いた。嘘だ、嘘だ。そう思ってないとやってられない。嬉しいなんて思っちゃいけない、なのに、何で。



「本当なんだがな」



指が綺麗に整えた髪をすべる感覚に、少々むかっ腹が立ったというか、そんな気分だ。意地悪を言ってみることにした。



「なら、買ってくれるの?」



一応娼婦の手管の1つではあるけれど、自分としてもみっともなかったから今まで一度も使ったことが無かったこの言葉。これで困ったら少しだけ突き放す。それで、何もなかったように下手な演技をして相手をする。そんな手管。
言って1秒、どんな反応をするかとほくそ笑んで言葉を待っていれば、「へぇ」と嫌な声がした。



「そりゃいい、買わせてくれんのかい」

「へ」

「それとも強奪の方が望みだってんならそうするけどな」



顔を上げた先で、唇が合わさる。端から端まで舐められて、呼吸まで奪われて荒い息でしがみ付けば最後にと緩く口づけたお兄さんの口が、ゆるゆると孤を描いた。



「な、なに、」

「もう少し黙ってな」

「なん、んぁ、ふ、むぅ........っ」

「っは、でもまぁ、あんたも半分冗談で言ったみてぇだし、こっちも何の準備もできてねぇ口だ」




2人して倒れこんで、服の下に滑り込む手の冷たさに震える。腕の中は熱いくらいなのに、何でこんなに冷たいんだろう



「用意ができたら連絡、必ずするから待ってろ」



ああ、もう、嘘でもいいか