感謝祭作品 | ナノ



どうか、なさったのですかと、息も絶え絶えになりながら彼女が呟いた。



真っ暗闇に慣れた目が映すのは、暴かれて曝け出されたなまえの肌と散らばる赤。先ほどまで何をしていたかなんて分からない方が少ない。上からなまえを抱き潰してため息をつけば、小さく呻いたもののすぐに受け入れようと背中に手を伸ばす。





大規模な戦の為の長期間遠征。その開始日が明日に迫った今日、


なまえが「誰ですか?」と首を傾げながら、柔らかに笑う男性の腕を抱きしめる夢を見た。



顔は見えなかったが、俺はその男がただただ有能な人間であることを知っていた。才知、武勇、機微、容姿、全てを手に入れた完璧な男が、なまえの腰に腕を回す。そこで目が覚めて、最悪なことに、俺は夢とも現実ともかけ離れた頭のままで、横で安らかな寝息を立てていたなまえを無理やりに抱いた。それをなんでもないとでも言うかのように受け入れる彼女に苦しくなって、いっそ手酷く、と考えた時にあの言葉だ。なまえの腕の中で荒くなった息を整えていれば、また、どうかなさったのですかと言う声がした。



「あ、なんでもないはダメですよ、」

「.........すまない」

「謝罪が聞きたいのではありません」



咎める言葉はお道化たかのような丸さがあった。なまえから降りるようにずれて、横に並んだ状態でなまえの腕の中にまた納まる。呻きに似た小さな声が出た。「夢を見たんだ」



「夢、ですか」

「すまない、情けないのは重々承知だ、君を疑っているわけでもない、でも、それでも、心配になった.....いや、怖くなったんだ、気を悪くさせてしまってすまない、」

「徐庶様、」

「謝って許してもらえないようなことをしたのは分かってる、でも「徐庶様、」



呼び止められて、気づいたら出ていたうめき声は人差指で止められた。



「謝罪が、ききたいのでは、ないのですよ?」

「........君が、他の誰か、素晴らしい才を持った男と......その」

「浮気した夢でも見たと?」

「う、」

「心配性」

「返す言葉もない」



ややあって、では、となまえが呟いた。



「約束、しましょう?」



何時ものことだ。彼女はこうやって俺が不安になった時に「約束」をしてくれる。破ったことは一度もない。
女々しい、男らしくない、これだから俺はダメなんだと何度も自虐に走っていたが、それでも安心できてしまうから本当に情けない。



「留守の間、浮気をしないでほしい」

「それだけでいいのですか?」

「...........あまり、人と話してほしくない、ずっと、俺のことだけを思っていてほしい、と、えっと」

「はい、分かりました」



ぎゅうと腕の力を込めるなまえが、「そんなのいつものことでしょうに」と呟いたのを、俺は心底安心しながら聞いた・