感謝祭作品 | ナノ
※現パロです



「なまえーちゃんっ」



ふざけた声の後、頭に乗った冷たいものを払いのければ缶の落ちる音と「っにすんだおい!!」という大きな声がした。夕方の誰もいない教室で机に突っ伏していた私は、少し濡れている頭に舌打ちをして起き上がる。



「こっちの台詞でしょうがばかのり、」



ああああ勿体ねェと炭酸ジュースの缶を拾う正則が何でここにいるから分からなかった。



失恋なんて何度もするもんじゃない。と、私が強く思うのも仕方のないことだ。何回目だろう。何度も何度も、この人だと思う人はことごとく好きな人や付き合っている人がいるんだ。やってられない。


今回も好きになった人が何とも可愛らしい女の子と手をつないできゃはきゃはしていたのを見てしまったことで失恋したことを知り、帰って母親にうじゃうじゃ言われるのが嫌で、学校にこもっていたら腐れ縁に捕まったのだ。もう土に還りたい。



「いや、何か気に食わないからお前が土に還れ」

「何かすっげぇ逆切れ来た!! 泣くぞ!!」



泣けばいい。と言ったらさすがにマジ泣きするから黙っておく。
暫くして、さっきの大声以来何もしゃべらない正則に気づく。何だ、いつもの喧しい声はどうした。ちらと見れば、何を言おうとしているのか、はたまた何も言う気がないのか、視線をあっちこっちにずらしては口をもぞもぞ動かす正則がいた。



「おい」

「あ゛ぁあ!!?」

「ちょい、褒めて、」

「ほめ? は?」

「はよせい」



はよ、はーよと急かせば頭を抱えてぎゃあぎゃあ言い出して散々うんうん唸って、知恵熱でも出たかと覗けばハッと顔を上げる。
本当にいいやつだよなぁと、つくづく思う。「女なんざ近づくな邪魔だ」の清正と光成とはえらい違いだ。まぁ、だからこそ損な役回りをすることが多いわけだが。



「頭がいい!」

「はいはいそれで?」

「それ、デ!?」



「で」のところが裏返っていた。まさか催促が来るとは思ってなかったらしい。また唸って、思いついて、言って、私が催促して、を繰り返す



「人付き合いがいい」「やることはちゃんとやる」「頭がい、あー、部活ちゃんとやってる」「髪の毛綺麗」



見た目のことが最後に回るのがこいつらしいなぁとか思ってたら、目頭がじんわり熱くなってきた。
机に額を押し付けて何も言わずにいれば、「んだよ、照れてんのかよ?」とどことなく嬉しそうな声を出した。腹立つ。



ぐず、と鼻を啜れば、ガタンッと椅子を蹴る音がした。びびってやんの、心の中で呟いた、時に



ぽすりと頭を撫でる手。顔を上げる。少々暗くなった教室でも分かるくらい赤い顔。顔に力が入るのが分かった。



「んだよぉ、露骨に嫌そうな顔すんなっての」



照れてんだよばぁか