感謝祭作品 | ナノ
「あ、あの、あの、陳宮さま、」

「はい、なにか、何かございましたかな?」

「ち、近くは、ないでしょうか」



前門の竹簡後門の陳宮さま、と言うのは少々言い過ぎな気もしますが、そうとしか言う言葉が無いので諦めることにしました。
少し前からこの状態です。何ででしょうね、どうしてでしょうね、まぁ、知りませんけど
私の小さい体躯は決して大きいとは言えない陳宮さまの体にすらすっぽり収まるわけで、いい加減、こう、むずむずするというか逃げたいというか、どことなく浮ついた気分になるのでどうにか逃げたいのですが、


「なまえ殿」

「はい?」

「少々よろしいですかな」

「はい、何でしょう」



本当は、何でしょうかと言いたかったのです。

お腹に回っていたはずの手が頬をするすると動いて、唇の下の小さなへこみを人差指が擦った瞬間くすぐったさと体の下へと響く何かに体が跳ねます。思わず伸びた背筋。陳宮さまの体から離れたせいか、涼しい、というか、少々肌寒いというか。



「ちんきゅ、さま.......な、なに、を、えっと」

「まぁ、そうですなぁ、」



真上を見れば目が合う陳宮さまの舌が、満面の笑みの口の端から端までを舐めるのが見えました。笑顔です。陳宮さまの笑顔が、今は、何故か、ものすごく怖い。



「口吸いをしてもよろしいでしょうか」

「ふ、ぇ!?」



口吸い、接吻、詰まる所の口づけと言うか、そういうことですよね、まぁ、知らないわけではないですが。



「なんで、なんでそんな、いや、と言う訳ではないですが、でも、その、ひ、」



顎を包む手に支えられるように首から上の動きを止められて、近づく陳宮さまの口を半ば強制的に受け入れます。短い口づけでした。ただ言葉を止めるだけのような、そんな。
離れた口の隙間から入ってきた空気を何とか吸って、固まったまま後ろに倒れる私の体を受け止めて胸あたりとお腹あたりに回る腕の力は少し、苦しいくらいでした。



「何故、何故と言われましても、なぁ、理由など1つ、1つしかありますまい」

「ひと、つ、ですか?」

「ええ、」

「それって」

「短くて単純、単純極まりない理由故、あまりお気になされるな」

「で、でも、ん、ふぅっ」



先ほどよりも無理のない体勢での口づけは、先ほどよりも長く、深いものでした。緩く動く陳宮様の舌が口の中いっぱいに入って、少し動くだけでも呼吸ができないくらい苦しくなります。



「ん、んむ、ぁ.........っ、ぅん、ん」

「ふ、ふふ、気持ちよさそうで何より、何よりです」



笑う、殆ど息の乱れていない陳宮さまの下で息も絶え絶えに崩れる私。あやす様に抱きしめ直す腕の中にしがみ付いて、何とか普通の呼吸に戻そうとします。



「ただ、ただ、あなたが愛おしいだけですゆえ」




その言葉はとても嬉しいのですが、ああ、勘弁してください、苦しいのはもうやです。