感謝祭作品 | ナノ



自分たちの子を結婚させる。というのは昔、父上たち義兄弟の方々が父となるさらに前、酒の席での約束だったそうです。
私が3歳のころにお生まれになった公嗣様――――まぁその当時は阿斗様でございましたが――――がお休みになっている際、「あ、そのガキな、お前の未来の夫だからよ!」といけしゃあしゃあとおっしゃった父を小さい私は何故「分かりました!」と満面の笑みで了解したのでしょう。
そして幾年が過ぎお互いがそれなりの年齢になった所でじゃあ結婚しましょうなんて運びと相成り今に至りますが、今のところ、夜の営みは行われる気配すらございません。




「公嗣様」




まぁ、幼いころからずっとそういう目で見ていたせいもあってか、公嗣様のことは好いております。しかしでは公嗣様は私のことをどう思っておいでなのか、と考えると聊か不安な点が多く、「実は嫌いだった」と言われても納得できる気さえして、不意に、本当に不意に、聞きたくなって名前をお呼びしてしまいました。



「その、公嗣様は、私のことをどう、思っておいででしょうか?」

「...........?
.......どう、とは?」



少し隙間の空いた反応、お道化たような動きで首をかしげて聞き返され、あれ、私何が聞きたかったんでしたっけと逆に分からなくなりました。分からないままでいい気もしましたが、何とか振り払います。



「お互いに.......その、色恋など何も分からぬうちの結婚ゆえ、公嗣様はどう思われているのかと、気になって」

「なまえは、私が嫌いか?」

「い、いえ! お慕い申し上げております、」


「ふふ、ならばよいのだ、」



思えば、これが初めての告白でした。そんなことをややあってから思い出すくらいにはあっさりとしたお言葉。はぐらかす、でもない。嘘だと思われている?



「........公嗣様、」



下手をすれば私よりも女らしい気さえする手を掴んで、目を合わせる。いつもと変わらない表情が少々悔しい。




「信じてくださらないのですか.......?」




いつも細められている公嗣様の目が、一瞬、本当に一瞬見開かれて、すぐに細められる。



「少し、こっちに来てくれないだろうか」



手招きをする公嗣様の顔はいつもの笑顔で、招かれた先、小さな椅子に座ると公嗣様が少し考えるそぶりをして、自嘲のにじむ声でつぶやいた。「私は暗愚ゆえ、良い伝え方が思いつかぬが、」




近づく足音と、急に暗くなる目の前。




頭と背に回る公嗣様の腕。耳にちょうど当たった公嗣様の胸板あたりからは、自分と同じくらいの鼓動が聞こえてきた。



「こ、こうしさ、ま」

「すまないなぁ、ふふ、そなたのそばにいるだけで、何を言おうとしても、なにをしようとしても、そんな余裕などなくなってしまうのだ、情けないのは承知の上だが、分かってくれるとうれしいぞ」



元が白いせいでしょうね、こんなに赤い公嗣様を初めてみました