感謝祭作品 | ナノ
「も、う、逃がしません!!」



散々息を切らしても続けた追いかけっこは、渡り廊下の小さなでっぱりに躓いて盛大に転んだ私を徐庶さんが心配して近づいた所を這いずって捕まえた、と言う顛末で終了した。



「................」



無言で、2人揃って息を整えて、掴んだ服の裾をもう二度と離すまいと握り直して何とか起き上がる。膝の皮が悲惨なことになっているのを、顔をしかめながら見る徐庶さん。最近、この顔ばかり見ていたのだ。仮にも恋人同士なんて甘ったるい名前が付くような関係なのに。





「どうして、私を避けるのですか」



自覚があったのか、目を反らして口を動かさない徐庶さん。この数ヵ月この反応しかもらっていなかったためもう慣れた。悲しい慣れだが、目を反らされるたびに一々傷ついていた以前よりかは幾分かましになったのだろう。



別に、嫌いなら嫌いでそういってほしい。無理して、惰性でだらだらと付き合い続ける気はない。そんなの徐庶さんに失礼だし自分としてもどうかと思う。まぁ、それで一切心折れずに平然と付き合っていられるかと聞かれれば無理の一言だ。目がとんでもないことになるまで泣くんだろう。それでもいいと思うくらいにはこの状態が辛すぎた。


「私が嫌いになりましたか。」

「き、嫌いじゃ、ない!」



それだけ叫んで、少し足を前後に動かした後、しゃがみ込んで怪我をした部分に布を巻いていく手は僅かにもたついていて、お互い何も言えずに固まる。たまに力の入れ方を間違えて傷口が悪化しそうになって悲鳴を上げれば土下座しかねない勢いで謝られた。何なんだ。



「........そ、の、聞いて、くれるかい、」

「ちゃんと説明してくれるなら、」



黙って、やや間誤付いて、きつく目を閉じてからこっちを直視する目は久方ぶりに見るものだった。嬉しさで動けない。



「........最初は、上手くやれると、思っていたんだ、いや、その君の隣に立つ男として、覚悟もできていたつもりだった、けど、だんだん、恥ずかしく、なって、なさけ、なくて.........」

「馬鹿」

「承知の上だ.....」



最後には膝の間に沈んでしまった頭の後頭部を見ながら、ため息をつく。劣等感の塊はなかなか治らないものだからと覚悟していたものだがここまでかと同じように頭を沈める。



「かお、上げられますか」

「少し、難しいかな、」

「じゃあ、そのままでいいので、今度避けたりしたら絶対に許しませんからね」

「ああ、ごめん」



暫く動かずにいたらいろんな人に「仲直りですか?」と聞かれた。絶対に、次は許さない。