感謝祭作品 | ナノ




「ん? 夜這いかなまえ」



決して文台さんを本気でどうこうしようとしてこの状況を作ったわけではないけれど、こんなに簡単に成功するとは思わなかった。
ベッドの上で仰向けになった文台さんの上に伸し掛かって、起き上がらないように肩を両手で押し付ける。

会社の社長の文台さんと、いろいろ、なんやかんやあっていつの間にか付き合うことになってしまった現状を数年前の私に言ったらどんな顔をするのか。甘やかすのと恥ずかしがらせるのがただただ得意な文台さんに好いてもらっているのはうれしいのだが..........いかんせん、やりすぎだと思うのだ。
普通なら安らかに爆睡しているはずの時間に目が冴えてしまって眠れず、隣でぐーすか寝息を立てていた文台さんに少しこう、イラッとしたというか、もやもやしたというか、いてもたってもいられなくなって、お腹の上に伸し掛かればパッチリ目が合ったものだから驚いた。



「そう、です.........」

「ほお、さて、何をされるのかな?」

「楽しそうですね、」

「ああ、なまえが何をするのか楽しみだ」



そういう、晩御飯待ちの子供みたいな言葉をそんな意地悪そうな顔で言わないでほしい。胸板についた手を、いつも文台さんがやるようにゆっくり指だけ触れさせて動かす。震えてるのはバレバレだろう。



「..........っ、ん」

「わあごめんなさい!」



色気のある、と言うか、鼻から抜けるような声があろうことか文台さんから漏れたものだから驚いても仕方ない。とっさに引こうとした手を掴まれて、再び胸に当てられた時には思考がパンクしそうだった。



「そう及び腰でこの虎をどうするつもりだ?」

「ど、どう、って、その」

「ん?」

「........っ」




言いよどんで、視線を横に流す。その瞬間だった。




「よっ」

「え、わっ」



ぐるんと回る視界と、背中を包むような温かい布の感触が、現状をこれでもかと分からせてくる。さっきまで文台さんが寝ていたところに自分が寝ている。



そして、さっきまで自分がいた所には、文台さんがいる。暗闇に慣れきった眼が、自分を見下ろす2つの眼光を完璧にうつした。





「不覚だったな」

「あ、ぅ........っひ、」




文台さんの口が鎖骨あたりをなぞって、小さく悲鳴を上げた私の口寸前まで近づいた。息がかかる。恥ずかしさできつく閉じた目を文台さんの親指が撫でるから、薄く、本当に薄く開けた目で文台さんの方を見れば、さっきよりも嬉しそうな顔でこっちを見る文台さんの顔が目に入った。



「奇を衒ったところは誉めるが、そこからの行動はまだまだだな、次はもっとうまくやれ」

「いいいいです、そんな、もうしませんっ」

「それはさせん、お前から誘われたことがどれだけ嬉しいか、短いのが惜しいが一晩で教えてやろう」



ああ、笑んだ口から見える八重歯が本当の牙に見える。