ぶつって、肌を突き刺す牙の音になれた、なんて、この前まで考え付かなかったのに、そんなことを考えながら喉を鳴らす郭嘉さんの腕の中にいる。相変わらず、よく飲む人だ。あ、鬼だったか。
「.........っ、も、吸いす、ぎ.....っ」
「ああ、本当だ、どうやら我を忘れていたようだね、やはりあなたはとてもいい」
裏なんてないと言わんばかりの綺麗な笑顔で、貧血で今にも意識を失いそうな私を抱えなおす郭嘉さんに傷を舐められて、ビクリと体が跳ねる。吸血鬼、つまり郭嘉さんに噛まれるとやたらと敏感になってしまうから、全身を撫でられているような感覚がなかなか抜けない。
「なまえ?」
自分でいうものあれだが、おいしい物を食べた後の声と言うのはこんなにもエロティックなものだろうか? 耳に漏斗でも使っているのかと思うくらい1つも漏れずに流し込まれる自分の名前がむず痒くて仕方ない。
前はこんなことなかったはずなんだ。吸血されても、普通に、理性とか自意識とかを、保っていられたのに.........
籠絡、そんな言葉が頭に浮かんだ。
すこし、息が止まった。
私の髪の毛をつついては、上に束ねたり編み込んだりしてくすくすわらう郭嘉さんに、目を向ける。
「郭嘉さん、にとって、さ、私ってやっぱり、家畜とか、そう言うのに見えてたりするの」
牛乳を毎日供給してくれる牛レベルの感情だったら、もういっそ立ち直れなさそうだ。まぁでも、伝える前なら恐らくは、苦しくはなさそうだ。
「うん、そうだよ、なんて言ったら、貴方はどのように泣くんだろうね」
「泣かないよ」
「なら、笑うのかな、やっぱり、とでも言いながら」
驚いた。そんな顔を私はしていたんだろう。いつの間にか私の顔を真正面から見ていた郭嘉さんの口角が、上る。
「私は長くを生きるものだから、退屈と不変は忌むべきものだ...........
貴方がただ、いい匂いのするだけの傀儡なら、5日も持たず美味しくいただいていただろう」
美味しく、カニバリズム的な意味が含まれているんだと、感覚で悟った。
「貴方が私に歯向かうから、貴方が私を睨むから、私はあなたとの時をとても楽しんでいられた」
「褒めてる?」
「大絶賛」
「.......そ」
顔を背けたら、「こっちを向いて」と、戻された。糸で引っ張られたから戻した、みたいな、そんな気分だった。
「愛してる」
「人生で何回目のセリフ?」
「3回目、くらいかな」
「そ、まぁ、いいよ、私が生きてる間の郭嘉さんが私の物ってなら」
一緒に死ぬなんてことは、きっとこの人はしないし、それでもいいって思った。好きでいてくれるなら、まぁ、それでいい
「そうだね、貴方が、私をおいていくまで、そんな短い間だけれど、その間全ての永遠を貴方に誓おう」
ああ、なんて酷い告白だろう。