それはあいですか? | ナノ


▼ 勘違いしてはいけません。優しさです

車に乗せられて、無言のまま、せんせーが車を動かして、着いたのはマンションだった。前に入ったことある。その時一緒にいたのはなんとかって会社の社長さんだったなって、思い出す。



エレベーターで上に、上に。着いたのは上から数えたほうが早い階で、がちゃんと開いた扉の奥に持っていかれて降ろされたのはバスルーム。
剥がされたコートの下から見えた体の、あまりの汚さに声も出ない。キスマークと縄の後と、ベタベタした精液。無表情にシャワーの温度を見るせんせーが、怖かった。



「せ、んせ、ごめ、なさ、ごめんなさ、い........」



怒ってるのかな、怖いな、嫌われるのかな、元から嫌ってたとか、それもやだな、タイルにぽたって涙が落ちる。向けられたシャワーの温度が熱くて、無意識に出た声に、せんせーの眉間のしわが深くなる。
すこし、何もしゃべらない時間があって、せんせーの指が顎にあたって、唇をつーって、親指が撫でた。じわって、せんせーの指から何かが広がる感じがして、体がぶるってなる。




「熱かったか」

「へ、へー、き、です」



ざー、て、ひたすらかけられるシャワーの下で、ドロドロ落ちていく汚れが排水溝に落ちていくのをみてた。全部落ちてくれないかな、跡とか、キスマークとか、ざーって、
一度出ていったせんせーが、ペットボトルの水を持って帰ってくる。



「これで口を洗え」

「あ、は、い........」



ぐちゅぐちゅぺって、うがいみたいに洗って、何回すればいいのか分からなかったからとりあえず全部使ってゆすいだけどせんせーは何も言わなかった。空になったペットボトルを脱衣スペースに置いてあった屑籠に投げ入れて。シャンプーとか、石鹸が置いてあるスペースからピンク色の物を数本出して、私の目の前に置く。



「好きに使え、タオルは用意しておく、気が済んだら出てこい」

「........あ、りがと、ございます」



流しっぱなしのシャワーの下、せんせーが出ていくのを見送って、目の前のシャンプーとリンスを見る。高いやつだ。娘さんとか、元カノ、とか、お嫁さんとか、持ち主が誰かなんてどうでもいいのにな、なんか、やだなぁ。



ベタベタが無くなるまでシャワーで流して、一通り洗う。口は念のためにもう一回洗っておいた。味が消えないけど、まぁ、何時もの事だし。



用意されていた白いバスタオルで粗方拭いて、くるって巻き付けて、バスルームを出る。





「あがった、ました」



なんとなくいつもみたいに話しかけることが出来なくて、へんてこな敬語を使う。ソファに座ってた、濡れた服のままのせんせーの近くまで行けば、伸ばされた手がほっぺたを撫でた。



「着替えを出すのを忘れておった.........傷は痛むか?」

「あ、ううん、だい、じょうぶ、」



せんせーが、優しくしてくれた。よかった。お礼とか、したほうがいいかな、助けてもらったし、あのままだったら凍死とか、ほどーとか、嫌なことしかまってなかっただろうし。
お礼の仕方なんて1つしか知らない。ズボンの、チャックに手を伸ばす。膝立ちになって、半分まで降ろしたところで、せんせーが止めた。






「やめよ」



おもい、声。嫌われた。止まったはずの涙がまたぼろぼろ出てくる。いつもの調子でやっちゃった。ばかだ、わたし、






「........あー、だよ、ねぇ、さっきまで遊んでた、やつに、やられたく、ない、よ、ねぇ......っ」



この部屋から出よう。こんなに良くしてもらって、何もできないのがちょっと心残りだけど、これ以上、せんせーに嫌われたくない。
立ち上がろうとした体は、くい、て引っ張られて、せんせーの腕の中にすっぽり納まった。え、なに、開こうとした口は、今日のブランケットの時みたいに、片手で封じられた。



「お主が手を出さぬようであれば、と、思っていたのだがな」



バスタオルの結び目が解かれる。また素っ裸だ。ぱさって床に落ちる音がして、せんせーの唇が触れる。せんせーに汚いの触ってほしくないのに、抵抗した手は片手で簡単に抑えられて、そのまま、ソファに倒れこむ。




「抱くぞ、紗奈」




せんせーはきっと、罪悪感で私を殺す気だ。

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