それはあいですか? | ナノ


▼ 理解不能なまま、それでいいのです

紗奈の、自分を見る目が酷く怖がっているように見えた。ほぼ衝動で動いていたことに否定はしない。抱きしめたままの紗奈から目隠しの手を離せば、固まって、潤んだ目でこちらを見ている紗奈と視線がかち合う。



「........せ、んせ....」




呟かれた言葉に何かが殺されたような気がして、


曹操は紗奈に絆創膏を1枚渡すと、するりとコートを翻して部屋を出た。




































変えてない絆創膏の上に巻き付けた、よくある肌色の絆創膏に触ってみた。イインチョにもらった時とは違う気持ちが、大波みたいに体中に広がっていく。





「家、行きたくない」





帰る道に行ってもなんとなく1人になりたくなくて、家に鞄だけおいて、ブランケットを抱えたまま、ぶらりと駅の近くを散歩する事にした。おじさんのとこはそう何度も行っていいわけじゃないし、


サラリーマン多いなぁ、とか、前に遊んだ人だぁとか、ぼんやり、思ってたら、だんだんせんせーとのキスに自分が喜んでる気がしてきた。だって心臓がわぁぁってなってて、頭とか、指先とかじわじわしてて、あったかくて、これが好きな人とのキスなんだぁとか思っちゃった。好きな人同士だともっと気持ちいいんだろうな、





幸せだったんだ。せんせーがどんな気持ちでキスしたかとか、私には分からないし、どうだっていい、
唇に触れて、口の端を上げる。よかった、よかった、あれだけで、私は十分幸せだ。

















「や、やめて、ください........っ」





怖がってる声が聞こえた。声の方を見たら、見たことのあるおさげが建物の間で揺れてるのが見えて現状把握。イインチョがガラの悪いのに絡まれてる。お金とかかな。もし体とかだったらどうしよう。



だんって、1人が今はやりの壁ドンをイインチョに仕掛けた。
あ、顔見えた。見たことある。手ぇ出しちゃダメって売女友達が言ってた人だ。運ないなぁ、痛いし気持ちよくないし、アフターケアの「あ」の字すら知らない奴らだっていってた。路上で放置とかざららしい。




あ、今日ので人生1回分の幸福味わっちゃったのかぁ、納得。でも今更だ。イインチョは私が守るんだ。



「おーにーいさん、わたしとあーそぼ」






絆創膏のお礼だ。たーすけーてあーげよ
イインチョの前に立って、ブランケットをイインチョに預ける。冷たい風急に当たり始めた。




ほらね、やっぱり世界は明日終わるんだ



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