▼ さあ、少し大切な止まり木では?
せんせーはバツイチだ。
何で別れたとかは知らないけど、それなりに子供もいるらしいし、私の先輩には曹丕さん何て名前の生徒会長がいる。多分そういう事だと思う。
「あめうま」
カラコロ、授業の合間の休憩時間を飴で過ごす。周りはひそひそ、飴はカラコロ、指はじくじく。さっき教科書でざっくり切っちゃった。あいにくと絆創膏なんてない。
きらきらした女の子が、格好いい男の子について話してる。好きな子について喋ってる。綺麗な女の子だなぁ、可愛いなぁ。
「あ、あの」
「ん? どーしたのイインチョさん」
「これ、良かったら」
よくいる、眼鏡&三つ編みツインの女の子がおずおずやってきて、出されたのは可愛い絵柄の絆創膏。
私にくれるのっていうびっくりと、嬉しさでしばらく止まって、すぐ
「ありがとー、ふへへ、可愛いねぇ.......
あ、でもさー私みたいなのに話しかけちゃだーめだよう、ね?」
悪ーイコに見られちゃうぞと告げれば、小さなごめんなさいの後離れていくイインチョ。別に気にしてない。可愛い子は愛されるべきだ。
私みたいな歪んだ愛され方は絶対似合わない。
「おじゃましまーす」
挨拶の後、何時ものように椅子に座るせんせーの足にしがみつくべく、机の下に滑り込んだ。あ、カーディガン引っ掛かっちゃったよ。寒いからって厚着はダメだよね。
「さむいねせんせー」
「季節だからな、」
何時もの、短い言葉。ほっぺたをびたりとせんせーの膝に引っつけて何もせずにいれば、少しだけこっちを見た先生の目。
「怪我でもしたか」
「あ、これね、教科書で指切っちゃって、そしたらイインチョさんがくれたんだよー」
気分は指輪。おじさん達からたまぁにもらうプレゼントよりも、何倍もキラキラして見える。見せつけるみたいに片手を翳せば、せんせーの手がもしゃりと頭を撫でた。
「あうあうあうあ」
「........っくく」
笑った。
せんせーの無表情以外は割とレアだから、こっちとしてはしじょーの喜び、ってやつなわけで、嬉しくてうれしくて仕方ない。まぁ、私といるとき以外、主に惇せんせーといる時とかは割と笑ったりふざけたりするわけだけど。あれ、羨ましい。
「せんせーの笑うとこ、けっこー好き―」
「......そうか」
手を口に当てたまま、呟いたあと、また無表情に戻ってしまった。
笑ってほしいのに、私じゃ力不足? てか、そもそも私が無表情の理由? それしかないよねぇ
「く、しゅんっ」
突然出て来たくしゃみに、びっくりするほど私の行動は早かった。
せんせーに風邪がうつっちゃいけない→迷惑かけるのやだ→だから、逃げる。
「じゃ、ね!!」
誰もいない廊下に出て、馴れきった足音のしない走法で薄暗い道を突っ走る。
寒い、冷たい。さっきまでここにあったはずのせんせーの足が苦しくなるほど欲しくてたまらない。
でもダメだから、寒いのも我慢する。ポッカリ空いた何かも、震えるほど怖い薄暗さも、全部全部我慢するから、
だから
「いらないって」
「早く言ってほしい」(ずっと言わないでほしい)
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