マルコさん、という名前の神様に拾われてから4日たった。大きな海洋生物を模した船(モビー・ディック号というらしい)は風を受けながらすいすい進んでいく。





「お、タマじゃねぇか! 魚食うか魚!」

「馬鹿そこは肉だろ肉!」


「おーいタビ!うめぇもんあるぞ!」

「猫に酒飲ますなよこの飲んだくれ!」



傷の治ってない体で外を歩けばすぐさま笑顔で寄ってくるマルコさんの家族。さまざまな名前で呼ばれることに未だ慣れぬまま、そのままそれだけの日数が経過した。



依然僕は、目の前の人たちに戸惑ってばかりだ。





炎がほぼダメになってしまったらしい僕のために彼らは生の魚を出してくれる。肉もまたしかり。
焼いた生き物を見て正気でいられる自信のない僕としてはありがたいことだが、その行為に毎回、心臓が締められるような気分になる。苦しい、うん、苦しくて仕方なくて、じわって、いろんなところが熱くなる
そう言えば移動方法に炎を使うらしいマルコさんもポケットに僕を突っ込んで外が見えないようにしてくれたっけ。



せめて小さい荷物運びでもしようかと食堂に入れば遠目からでも目立つ天敵の姿。あ、ここは無理だと瞬時に諦めて外に出ようとする。




「なんだよおじょーさんお腹すいたか?」



バチンッ




唐突に掛けられた声に臨戦態勢になった前足が近付いてきた何かを叩き折る。そのとたんに上がる悲鳴。「何だ? どうした!?」と初日に出会った女の人の声がした。



「リリリリリーゼント折られた」

「急に話しかけるからだろ......ごめんな猫、驚かせたようだ」



視線を合わせるようにしゃがみこんだ女の人、確かマルコさんがアリカと呼んでいた気がする。
問題ないと差し出された手に爪をしまった前足を乗せればふふ、ときれいに笑うアリカさん。
後ろの茶髪さんが髪の毛を元の形に戻すのをあきらめたのか腕に付けていた輪っかを頭につける。



「驚かせてごめんな? あーっと......そういやコイツの名前決まってねぇよな」

「マルコが名前図鑑片手に唸ってるよ.......その前にあの子らのつけた名前が定着しなきゃいいが.....」

「あー.....ステファンの時もなりかけたなそれ」



どうやらここにはステファンという僕の先輩がいるらしい。猫でなければなんでもいいが挨拶くらいはしておくべきか。




「さてと、驚かせちまったお詫びに鰹節どう?」

「おーいサッチ隊長が仕事サボってタマ誑かしてんぞ!!」

「リーゼント折るぞバカ隊長ォォォ!!!」

「さっき折れたばっかだわ畜生」




後ろからひょっこり現れた茶髪さんと同じ服を着た人が後ろに叫べば後ろの方で怒号が飛んだ。りー、ぜんと。僕が折ってしまったそれはそういう名前なのか。髪の毛じゃなかったのかな。



「ほら、お呼びだぞ隊長」

「へーい、おれっちがんばんよ......」



アリカさんに鰹節(と呼ばれた茶色いもの)を手渡してよろよろ歩いていく茶髪さん。あ、そうだとくるりと振り返った



「ここにいつ奴らは全員“家族”だかんな、やな事あったらサッチお兄様かその他の皆様にちゃぁんと言うんだぜ〜?」



くるんと大きな体に似合わぬ身軽さで回って、その瞬間「その他ってなんだよ」「おーいバリカン持って来―い」とさらに大きな人とか小さい人に囲まれる、サッチ、お兄さん



「もちろん私に言ってもいいが......そうだな、マルコに一番最初に言うのが一番いいかもしれない」



そらお食べ、差し出された茶色いもののにおいをかいでから食めば、何とも言えぬ味がした。




温かいってこういうこと




おいしいな、




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なんか、へんだな?


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