引っ掻いてしまった



気づけば目の前に一人の人。少し変な匂いがするけど、何だろう。何故か鳥に似た匂いがする。
胸に大きな刺青で月と十字架が交差したようなマークが描かれている金髪の男は、海の色に似た目をこっちに向けて、ひっかいた反動でよろめいた僕をやさしく受け止めた。泥だらけだよ僕。綺麗な手が汚れちゃうよ。



あわあわする僕に気付いた人が少し目を泳がせながら「あー、悪かった、よい」と言って手を離す。もうつつかないという意思表示なのかは分からないがわざわざ体力も乏しい状態で人と一戦交える気はない。爪をしまって元のようにふせの体勢になればやや警戒しながらこっちをじっと見てくる。




「この島はお前1匹かよい」



だろうね、もう何週間も雨以外の音を聞いていないから。



「怪我してんのかい」



ご心配なく、痛みなんてもうないよ



「首輪がねぇが、野良か?」



そうだね、いつだかの犬が言っていたような飼い主はいなかったよ





「......もう一回、さわってもいいか?」



何でそんな小さな子供のような目で見てくるのかな。見たところ『オジサン』と言われる歳なんじゃないの? 僕自身が自分に対してこう、謝りたくなるような気持ちをもつくらい汚いのになんでこの人は触りたがるのか。



というか......手を伸ばすのに時間かけすぎじゃないか。




近づいては少し下がる動きを繰り返す3本線のついた手に、またひっかくとでも思っているのだろうかと考え付いてよろけながら立ち上がる。爪を出していない前足で人の地面についた片足を触れば重そうな瞼を少し開いてぽかんと口を開ける。




ほら、痛くないよ。だからそんなにびくびくしないでよ。さっきはごめんね、痛かったよね?
汚いかもしれないけれど、と謝罪の意味も込めて傷を舐めればふわりと僕の体を包む人の手



ペタペタと触ってくるそれはなんとも懐かしい人の体温で、雨で冷たくなっていた僕には少し熱いくらいだった。




暫くそのままにしていたが、人がなにかを考えるように動きを止めて数秒。触るのを止めて手を僕の前に出した。



「.........手当てとか、してやっから来ねぇか」



何とも言いにくそうに言い出した人の手は僕についていた泥やら煤やらでどろどろになってた。生きることを止めたい僕に手を伸ばすあなたは神様か何か?
わかったよ神様、温かさとこの意味の分からない涙のお礼に、この命をあなたにあげる




どうせいらないものだから





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動物好き設定マルコサン。ステファン拾ったのも彼だといい


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