唖然茫然、暫く固まったイゾウは、目の前の出来事を何んとか理解しようと頭を必死に働かせた。必死に口を押さえる両手から漏れる嗚咽が完全に自分のせいであることは百も承知で、自分の考えが浅すぎたことにイラつきすら覚える。



「もうちっと耐えてろ」



囁いて、呼吸すら止める勢いのカティアを抱え上げて自分の部屋に走る。さっきの泣き声でどれだけの人間がこっちに来るか分からない。ようやくついた自室に飛び込んですぐさま扉を閉める。自室用に調達した畳の上にカティアを下して、向かい合う位置に座った。



「両隣空室だから、我慢すんな」

「―――っ、――っっ」



押さえつける手を離さず、苦しそうにしながら首を振る。100%自分が悪いのだという自覚はあるだけに強くも出られず、落ち着くまで布団を被せて待つしかない。
せめてと頭がある位置に置けば、布団の隙間からおずおずと伸びた手が着物の袖を掴む。



「甘えてェか」

「......っぅ、......ふ、く........っ」



大きくもぞもぞ揺れる布団の塊。また拒否かと思いきや、弾丸のような勢いでカティアが飛びついた。ぎりぎり、押し倒されながらも受け止めて、胸板あたりに顔を押し付ける。起き上がろうとカティアの背中を叩けば、先ほどよりは聞こえやすくなった嗚咽が布団から漏れ出て、まぁ、落ち着くまではこの体勢なのだなと諦めることにした。












「.....っ、は、恥ずかし、と、見せてもうて、っぅく、」

「気にすんな、俺も悪かった、息できてるか?」

「ちょ、と、ひくっ、けほっ」



暫くして、何とか言葉を紡げるようになったカティアが布団の端を抱きしめながら頭を下げる。



「で、何があったか、言えるか?」

「...........


そ、その、前に、お、おりてええやろか、」

「いい抱き心地だったんだがなぁ」



腕を離せば、ずるずると起き上って布団をかぶったまま正座の体勢に入る。赤くなった鼻を片手で押さえて、しゃくりあげる。



「で、その、言わな、あかんの、やろか?」

「言いたくなきゃそれでいいが、泣かした手前聞きてぇってのが正直なとこだ.......今日怒らせた詫び、愚痴でも構やしねェよ」

「............



さっき、ここん、こと、悪ぅ、言うひとが、おって」



まぁ、一応海賊と言う職業である以上よくあることで、一々気にして突っかかっていくだけ疲れるということで基本無視が鉄板なのだがカティアはどうしたのだろうか。開く口から紡がれる言葉を待つ。



「まぁ、うちの本性、は、見たやろうし、聞かはったから、分かるやろうけど..........その、おしとやかとちゃうから、ほんまは......し、しばいたろ思ったんやけど、うちのお師匠はん、ああ、クレハさんとはちゃうほうの、




約束したんや、絶対人傷つけるような、まね、したらあかんて..........っせやけど、なんや、くやしゅうて、くやしゅうて........!!」



乱暴に涙をふく手を剥がせば、先ほどまで嫌と言うほど見た泣き顔がこっちを睨んだ。袖から取り出した手拭いを渡して、無意識に舌を打つ。



「あ、かんにん、すぐ泣きやみます、よって、」

「いや、悪い、お前にじゃねェさ」



ついたため息にびくつくカティアの頭を撫でて、そういや泣き顔には冷たい濡れ手ぬぐいの方がよかったのだったかと思いだして立ち上がる。



「好いた女の泣き顔が見るに堪えねェだけだ、冷たい手拭い持ってくるからちっと待ってろ」

「................




へ、」



固まったカティアに気づくことなく部屋から出たイゾウが自分が何を言ったのかを思い出すのは、冷凍室で得た氷で氷水を作っていた最中だった





ああ、好きだったのか


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