「よ、おれおれ」

「.......殺されに来たの?」

「ちげぇよ!!」



どこにいるかも分からなくなって、ひとまず休憩しようと立ち止まれば後ろから声をかけられた。あの猫だ。刀を握る感触はある。殺れると思ってたけど矢鱈大きな身振りで拒否するから代わりに睨み付けた。何で、この猫は僕が殺気を向けると嬉しそうにするのか、よく分からない。





「マルコさんが止めたからあなたを殺さないだけって事、わかって欲しいな」

「ふぅん、おまえその、マルコ? てやつ「名前呼ばないで汚れる」あの人間のペットなのかよ?」

「だったら何、殺すの?」

「殺さねぇよ、いつの時代の話だよ......」



どうやら、今の猫は人と一緒に生きてもいいそうだ。
じゃなくてさ、と呟いて、指をくるりと回す猫。白と茶色と黒が入った髪の毛が風でふよふよ動いた。



「お前さ、化け猫の寿命知ってるか」

「知らない」

「じゃあ、100万回生きたねこって本知ってるか」

「知らない」

「猫に九生あり」

「短く分かりやすく言って」

「人間と一緒に生きるの止めてここ住めよ」

「嫌。話終わった?」



声を跳ね返すように言葉を出していけば、猫が頭を抱えだす。何なんだ。もう




「化け猫の寿命はくそ長ぇ、それこそ、人間なんて軽々追い越しちまうほどだ」



くそなげえ、この5文字がどれだけの時間のことを言うのか、僕は知らない。猫の言葉は続く。




「今はいいだろうさ、でもな、人間なんざ高々60とか、まぁ長くて100いくつ、そう経ってあの人間が死んで、お前は一人ぼっちだぜ? あ、いや、いっぴきぼっちか
だからさ、ここ住めって、」

「そ」



ピエロを思い出した。何時だったか、まだレインベールが賑やかな、本当に暖かい島だった時に見たことがある。呟いて、またカティアのお姉さんを探すために道を歩く。後ろで何かを言おうとする猫の声が聞こえるけど、気にしない。



「それは、マルコさんが生きてるから生きてる僕に必要のある情報とは思わないけど、一応お礼は言っとくね」





「その執着はさ、アンタがあの人間のこと神様って思ってんのと、何か関係があるのかい?」











*    *    *











「なんか、あったのか」



帰ってきたカティアにイゾウが話しかけたのは、カティアの表情に何か引っかかるものがあったからだ。「機嫌いいねぇ」とハルタが言う。「何かいいもんでもあったか?」とアトモスが言う。カティアが浮かべている笑顔はそう見えるほどのもので、イゾウも最初はそう思っていたのだ。が、2度3度と見ていれば、ん? と首が傾げられる。



「何でもあらしませんよ? ........何か可笑しいやろか?」



カティアの部屋の前、お道化た表情で笑うカティアにまた違和感が募る。何かが違う。どう言葉にしようか考えていればドアノブに手をかけるカティア。違和感の塊が思いきり突っ込んできたような気分だった。その手を掴んでも変わらないカティアの笑顔に舌打ちを打つ。



「そんなに俺から逃げてェか」




普段なら話し終わるまで何もしないままでいるはずのカティアにしてはありえない動きを言及すれば、ガチりと止まるカティアの体。



「......そんなんや、あらへん、け、ど.........」




カティアの目が大きく開かれる。ぽつりと呟いて、それっきり開かなかった口の口角は相も変わらず上がったままだ。



「ちょお、うち、疲れてしも、たらしゅう、て、」

「ほぉ」



んな揺れまくった声で俺が騙せるか、兎にも角にも、この笑顔をどうにかしない限りまともな返答は貰えなさそうだと、イゾウはため息をついた後にカティアの背中に手を伸ばした。胸板にカティアの顔を押し当てれば、聞こえる小さな歯ぎしりの音



「さっさと話さねェと、その外っ面ひん剥くぞ」



近づいた耳に言葉を流し込めばカティアが小さく呻いた。「な」と諭せば、2回、息を吸う音が聞こえる。口を割る気になったのかと、少し肩を下した瞬間。










「―――っう、あ、あああぁああぁあっ」






カティアが泣き崩れた。






今この場で喉を掻っ切りたい


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