「・・・・・・・」

「・・・・・・・何」

「「「いや、なんも」」」




さっきから僕をじーっと見る人たち。強い太陽の光が届かないお父さんの椅子の横で休んでいた僕をさっきから穴でも開くんじゃないかってくらい見てる。ちなみにこの「何」「なんも」の応酬は何度も続いてる。お父さんも笑ってないでどうにかしてくれないかな。ちょっと怖いな。




「何やってんだよいお前ら」

「あ、マルコさん」



書類の束で肩を叩きながら近づくマルコさんに、くるりと体を反転してお辞儀をする人達。



「マルコ隊長チーッス!!」

「オツカレーッス!!」



やっと視線が離れたことにほっとして、ふと顔を掻いた。別に痒いわけじゃないけれど、何となく・・・




「「「・・・ッキタァァァアアァ!!!」」」

「ぅぇあ何!?」



視線の主(まぁ全員航海士の人達なんだけど)が一斉に大声をあげながらノートやメモリの2つ付いた何かの測定器のようなものを取り出した。
混乱する僕、「なぁにやってんだよい」と目を細めるマルコさん。



「変化あったか!?」

「いや・・・変わらねぇや」

「あ、風向き変わった」



あーだこーだ、いろいろ言ってはノートに書き込んでいくお兄さんたち。未だ訳の分からない僕に、お父さんが口を開いた。



「猫が顔を掻くと雨が降るってなァ、昔から言われる迷信ってやつだ」

「めー、しん?」

「たいしてちゃんとした理由があるわけじゃねぇけど何でか信じられてる噂みてぇなもんだよい・・・いい年こいて何やってんだか」

「おやおや、昔雷に臍とられるって地味にビクついていた子が何を言うかな」



ふふ、と綺麗に笑うアリカのお姉さんに顔をしかめるマルコさん。後ろにはサッチのお兄さんもいる。



「あー似たようなやつ俺信じてたわ、カエル殺すと全身イボだらけになるってやつ
食用ガエル捌く前に言われたもんだからしばらく逃げてた」

「アリカも昔はビビって昼すら口笛抜けなかったろうが」

「おーやーじーさーまー?」



「夜に口笛吹くとお化けがくるって迷信があるんだよい」とマルコさんに教えられて、「昔は蛇が来るって聞いたッスよおれ」とも教えてもらう。



「可愛らしい話やねぇ、ウチもよせておくれやす」



カティアのお姉さんとイゾウのお兄さんも混ざる。なんでもイゾウのお兄さんの故郷は迷信が異様に多かったらしい。



「猫についちゃ異様に多かったなァ・・・黒猫が横切りゃ不吉、3年飼えば化ける、10年生きると化ける・・・結局どうなんだ?」

「15歳くらいから人に馴れるようになったから・・・多分15年・・・じゃないかな、それぞれだと思うけど」

「うちも結構迷信多いとこ出身やさかい、船乗りが猫飼ったらあかん言う迷信もあったからアーシェちゃん見たときは珍しいなぁ思とったんです」

「俺のとこじゃ猫は船乗りのってイメージだったんだけどなぁ」

「俺んとこもそうだったねぃ」

「まぁ、アーシェが来てからなんも悪いことは起きちゃいねぇがな」

「単に俺らが”悪いこと”だろうと楽しむ性質ってだけだろ」




違いない、しかりしかり、お父さんが大笑いして船が揺れる。とりあえず、よく分からなくて無意識に頬を掻いた。




迷信俗信のエトセトラ




ポツリ



「あ、雨降ってきた」




――――――――――――――――――――――――――
はい、迷信とか妖怪の話とかすごく好きなので書いてて楽しかったです。
本人としてはごついオッサン共が猫(人型だけど)囲んでわちゃわちゃやってるのは癒しですけども、癒されてくだされば嬉しいです。


prev back next