墓石の前で目ぇつむって三秒
正直何でこれだけしか拝んだらあかんのかお墓の主に1時間ほど問い詰めたいとこやけど遺言やししゃあないよなぁと、目の前の墓石に書かれた名前の主に苦情を漏らす。
うちのお師匠やった人でつい1月前にポックリ神様んところに行ってしまいよった。
「くれはの師匠はん雪なんぞ払ってくれへんやろうし傘おいてくよって、せいぜい風邪ひかんようにな? お師匠お空の上でも腹出して寝たらあかんよ? 財布はちゃあんとカバンの中にしまいよ? それと.........」
お決まりのこのセリフも暫く、下手したらもう二度と言えへんやろうなぁとしんみりしながら一通り言い切って、ついた雪を軽く払いながら立つ。
「ほんなら、あっちでもあんじょうやりぃよ?」
なるたけ小さくした荷物を抱えて海岸へ向かう。10時出発の商船に乗っけてもらえるはずや。
「―――なぁんだい挨拶もなしに行っちまう気かい? 不孝モンだねぇ......」
「挨拶なら出際にぎょうさんやったやないの......くれはのお師匠」
いつものソリに乗ってサングラスを外すくれはのお師匠、ホンにぎょうさん、うちの涙が流れて枯れるまでお礼言い倒したんにまだ足りん言うんかこのお人
「餞別、うまくやんな! 腕と顔だけはあたしくらい良いんだから」
「顔関係ない......あーええわ、なんも言わんときますよって、くれはのお師匠に褒められたらもう十分や」
言葉を交わしながら投げられた小袋を受け取ってカバンに入れる。中身なんやろ、お金......はちゃうよなぁ.........
「ほんなら、いってきます お師匠」
「怪我と病気だけはするんじゃないよ」
開戦の凱歌 終戦のファンファーレ
終わりにして始まり、そんなもんやろ
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本作三人目。出番結構あと。ごめんよ