じくじくとした感覚が広がる指先を動かしながら、アーシェは飛び出して行ってしまったカティアを探しに上陸した。



マルコにも、他の家族にも、アーシェは言えないことが多過ぎた。



「はいとくこーいだ」



信じる尊き御方々への、これは背徳行為に他ならない。



ため息をつきながら、道を歩く。






にやあ





余り、化猫としての人生上、聞いたことのない猫の鳴き声がした。












カティアは首をこてんと下に曲げながら、とぼとぼ道を歩いていた。どういう道を歩いたかは覚えていないが、まぁ、港に行けば分かるだろう。モビーディック号は大きい。



キレるつもりは毛頭なかった。確かに怒りこそ覚えたものの、マルコがゴーサインを出さなかったらずっと抱え込むつもりでいたのだ。



初めてできた、可愛い妹だ。隠し事があるのは自分も同じだし、過去に何があったかはカティアもあまり詮索されたくない。




「おい、見たかよあの船!」

「白ひげの海賊船だろ? んなごときでぎゃあぎゃあさわぐなっつの」




なんや冷たい反応や、そう思いながら通り過ぎようとした。





「町の奴らもぎゃあぎゃあうるせぇし、迷惑だってこと気づけよって話だ.....まぁあんな屑どもに人間の心がわかるかってな」





唐突に噛みしめたせいで歯が嫌な音を立てた。分かってる。気にしたら終わりだ。海賊は人間の屑なんてこの世界でどれだけ思ってるか知れたもんじゃない。歓迎されるなんて思ってない。





「てか、あんなおいぼれ船長持ち上げて父親って、気持ち悪ぃよ」





踏み出した靴の音が、頭に大きく響いた。










*    *    *










「熱、だしたの初めてかもしれない......」

「気づかなかっただけだろ」




アリカがベッドの上でつぶやいた言葉に答えながら、椅子に座って様子を見ている俺。まぁ、分かってるだろうが熱が出た人間ってのはやたらむぼーびで、クるものがある。


赤い頬とか、暑くて緩ませた胸元だとか、アリカだって例外じゃねぇ。いつもの完全防壁っぷりを知ってるからか、今の俺にはさぁ召し上がれと匂いをまき散らすご馳走にしか見えない。まぁ、そういう見え透いた色気は慣れてますケド? ただそれがアリカに装着された瞬間愚息がいきり立ちやがりましたケド?



「しごと残ってるんだ、はんこ押すだけでもやらせろ」

「寝てほしーなぁ俺、」

「今日中にやらないと、この島で何も買えんぞ」

「じゃ、俺も手伝うから」

「......ありがとう」




判子が入った引き出しはどれだったか。まぁアリカの持ってる判子の量が尋常じゃないから、どれを使えばいいのか分からないけど。丸の中に「最重要」って書いてあるやつは......要りそうだから出しておく。





カサって、判子を動かしたら音がした。「今日中」だの「確認済み」だの、そんな判子の下、赤くなった底板にへばりつく様においてある封筒に目が行った。判子オンリーの引き出しの中、他に紙は入ってない。



一文字だけ、「状」って見えて、心臓が跳ねた。




判子を動かす。お気楽な声で、「あ、数字の判子とって」というアリカの声に、適当に頷く。




なんだよこれ、口に出さない俺を誰か褒めてくれ。





大きく丁寧に書かれた、「絶縁状」の3文字に、心臓が止まる思いがした。




いつだって、どこだって想うのは、


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