「さ、て、と.......」
アーシェが医務室へと消えた10秒後、マルコが大きくため息をついた7秒後、我に返ったカティアが陸へと逃げたその3秒後、追いかけようとしたイゾウのすぐ横、鼻の1ミリもない前を1本の鋼が通りすぎた。ガズンと突き刺さった鋼は、丸い取っ手と磨き抜かれた刃がキラキラと光っている。
たらり、流れた冷や汗が頬を滑るのを感じながら発生源を見れば、そこには綺麗な顔立ちをにこやかに曲げたアリカが、己の武器の1つをクルクルと回しながら近づいていた。
その武器は、巨大な鋏。先ほどイゾウの鼻先をかすめた鋼の片割れがクルクルとピエロがナイフを弄ぶようにブンブンと宙を回っている。
長さは優に、2メートルを超える。
「カティアは怒り切った。ならば、今度は私の番だと思うのだが異論はないか愚弟共」
「........ナイデス」
先程の攻撃は単に追いかけるイゾウを止めんがための投擲だったのだと、イゾウもビスタも把握している。
断言できる。彼女は、1600人を超える妹や弟を束ねるこの女性は怒ってはいない。
「今追いかけてはいけないよ。カティアは言いたいことを言ったまでだし、お前たちはお前たちのやりたいことをやった。そうだろう?」
「やりたくてやったわけじゃないぞ」
「私が武器を握っている間は手加減だと教えたはずだがなビスタ」
怒ってはいない。されどもその代わりに、わだかまりが残るのがどうしても許せずにすべての喧嘩に首を突っ込むのがこの姉だ。
「アーシェがキレたら強くて速かった.......では、どうしても納得いかない?」
「いってたらあんなことしねェよ」
「君たちの秘密の特訓で、あの子がどんな戦い方をしていたかは知らないが、殺す対象と戦う対象で戦い方が違うのは普通ではない?」
「そんなに怒ってたのかよい」
「あの子にとっては自分の身内が自分の宝物に手を出したような気分だったんだろう、あの子は家族でありその前に猫だ。私らとはどうしても考え方が違ってしまう」
まぁ、大切な妹であることに変わりはないが、と笑うアリカの声は、すぐに真剣なものに変わる。
「だが、あの子は少々、厄介かもしれない」
「どういうことだよい」
踏み出すマルコの1歩で、床がきしむ。
「マルコ、お前は指を吹っ飛ばされて顔を歪めない自信はあるか?」
「.......ねぇ、よい」
「ビスタ、いきなり”家族”に切り掛かられて、平常心でいられるか?」
「.......ノー・コメント、だ」
「イゾウ、」
「何が言いてェ、てのは聞かないほうがいいのか?」
「.......疑いたくないし、事実疑うつもりは毛頭ない.....が、
レインベール.......少し調べ直してみようか」
沈黙、それを壊したのは、その場にいなかったはずの人間だった。
「その前に姉ちゃんはお布団な」
後ろから、アリカの額に手を当てるサッチを、甲板にいた全員が目を丸くして見ていた。
「額」「お布団」この2つの言葉で連想できるものなんて多くはない、が、誰も彼もが目の前の傑物とそのワードの繋がりが想像できない。
「熱いか?」
「サッチ様の勘を侮るなってんだよ」
「おおう、なんだかぐらぐらしてきたが」
「眩暈な、体調不良の症状の1つな、ちゃんと覚えとくように」
「そっちこそ侮るな、私だって眩暈の1回くらい起こしたことある」
「大量出血が原因の眩暈じゃねぇからな」
沈殿したどろどろの
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ひっさびさぁ