「あそこに見える島さ、これから行くところなんだけどね? 猫の島だってさ」


ハルタのお兄さんの言葉に、僕は何とも言えぬ笑顔を返した。
首をひねるお兄さん、うれしくない? って聞かれた。
猫の島、ミケーネ。コをつけたい名前だなとイゾウのお兄さんがぼやいだ。



「えっと、レインベールは僕以外に猫がいなくて、気にしなくてもよかったんだけど、確かね、猫は人に懐いちゃいけないってルールがあるって聞いたことがある」



特に、ミケーネはその意識が一番強い所だとも、聞いたことがあって、ああ、たぶんだけど




「猫の僕が人に懐いて海賊やってるなんて、たぶん危ないだろうなぁ」




まぁ、むざむざと死ぬつもりはないけれど、っていう言葉は、何でか口をぱっかり開けた周りの人に潰された。



「タビ死んじまうのかよおぉおぉぉぉおおぉぉぉぉお!!!!」

「ぜ、絶対ェマルコ隊長から離れんじゃねぇぞ!!」

「いや、むしろ舟下りんな!! 親父ンとこいろ!!」




ぎゃあああああああと悲鳴を上げ続けるお兄さんたち。弱い者扱いされてる感じが否めない......納得、行かなくてぶすくれついでに猫になって、服を引きずりながら少し離れたところにいれば、ビスタのお兄さんが近づいてきた。
差し出された魚の形をしたクッキーを受け取って食べる。猫の時のニボシしかり、ビスタのお兄さんは僕に餌付けしてるんじゃないか?



「にゃあ.......」

「通販で偶然あったから買ってみたんだが、お気に召したようで何よりだ」



にっこり笑うお兄さんにつられて、少し浮上した気分。お前の強さは知ってる。まぁ弱さもだがな、と、お兄さんの呟き。まだ僕は足りないんだろうな。頑張らなければ。






ガコンと音がして、島についたと雄叫びが上がった。なるほど、猫の島、確かに至る所に猫の気配と足跡がある。



ボスリと被せられた帽子、大きすぎて顔が半分以上埋まった。ビスタのお兄さんのものだった。まぁ、無用な戦闘は避けてしかるべきだろう。はぁい、わかった。














マルコさんのところに行こうと鼻をスンと動かしたのと、船内から聞こえる絶叫はほぼ同時だった。



「だあぁぁれだ冷蔵庫漁りやがったのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「!!? どうしはったんサッチ様・・・? かんばせすごいことになってますよ?」

「あー......ごめんなカティア......さっき下の冷蔵室に行ってきたんだが.....ものが......その、無くなっていてな」

「食料が無くなった.......ゆうことでええですか? アリカ様」

「単なる食料じゃねぇぞ!!? 親父用の値が張った肴とか宴用のちっと高めの食材中心にドロンだよ! もう俺泣きそう!!!」

「鍵はお前が持ってんだろうがよい」

「持ってんだけどよぉおおおおぉぉおぉおお!!! 厳重管理してたんだぜ!!!? 使った形跡ねぇのに無くなってんの!!! こりゃもうだれ、か――――――




ガンッッ





サッチさんの言葉を止めたのは、僕の”爪”だった。バサリと被っただけのシャツが背中に乗る。




「いきなりどうしたんだよい、アーシェ」

「..............




黙れ」



お、おいと、誰かの声が聞こえてきた。




「マルコ隊長に何やってんだよアーシェ!!」

「......てか、さっき、刀、抜いたの見たか?」

「見えなかった.......早ぇ......」

「てかタマ服!!!」



足元でうつ伏せになってる金髪を踏みつけて首筋に爪を這わせる。これがマルコさん? 笑わせないでよ。



「マルコさんのにおいがしない。声が可笑しい。髪の毛の色も違う........それでよくも僕の大切な人に化けたって思えたね」

「.........なんだよ、同類かよ」



ボンッと音がした後に足元の男の姿が変わった。ひょこりと生える耳。同類。なるほど。



「ペッタンコな胸が見えてんぜ」

「で、」



短い返答ののちに繰り出される蹴りを避けて構える。なんだ、ビスタのお兄さんより数段遅い。
やり返しに首を狙って数回爪を振り下ろせば、男の顔から焦りが見えた。







「つ、強いじゃねぇか!」

「......るさい」




久しぶりのこのドロドロとした感情に、重いため息をつく。あいつから、お父さんのオツマミの匂いがした。冷蔵庫を漁った犯人はアイツ。僕の同類が、僕の手をすり抜けて、僕の家族を困らせたんだ。思い至ってさらに増すドロドロ。なんて言ったっけ、これ。



「死んで贖え」



ポン、と顔を何でか赤くする同類に爪を振り下ろす。あと少しで皮、ってところで、僕を止めるマルコさんの声がした。今度は本物。



「.........サッチのお兄さん、冷蔵庫の犯人たぶんコイツ」

「よしわかった今日は猫食うか。確か食えたよな」




大きく息を吸ってドロドロを何とか消そうとする。何時もならこれで消えるはずなのに、なんでか消えない。



「アーシェ」



ペチペチとボタンを綺麗に止めてくれるマルコさんの手を握って、零れるドロドロを耐えようと下を向く。



泣きたくないのに、やなのに、今は、マルコさんの優しさが、何よりつらい





「........――――れ......」




小さく、同類が呟くのが聞こえた。なに。ドロドロが未だに漏れ続ける目を擦ってみれば、サッチのお兄さんにギッチリと縛られた同類が目を輝かせて僕を見ていた。




「〜〜〜っ惚れた!!!」



「.......は?」






ハジメマシテの同類さん








「マルコさんホレタって何?」

「海の深―いところにそういう貝がいるんだよい」

「それホタt「姉ちゃーーん! 猫って海鮮鍋みたいにできる!?」

「煮りゃなんだって食べれるよ」



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