カティアさいど
ギッコンバッタン.......
(あかん、旅費尽きる......)
ゆらゆら揺れる船の上、ちらちら降る雪を何とか外套で防ぎながら、あくまで顔はにこやかに、視線だけずらしてくれはのお師匠はんのお古な鞄の中を見ればなんとも寒くなったおサイフ。宿泊代やら何やら削ったりはしたんやけど治療費には勝てん。
しゃあない次の島で暫く腰据えて.......あかん、野宿と宿住みじゃ信用が桁違いや、葉っぱついた医者が診せてくれ言うても怪しいだけやし、うちかて診られたない。
しやけどこの金額はあかん、正直もの食べるんが怖くなってきた.......あー洗濯と風呂だけは最重要や、なんで商船って人の見ん所あないに汚いねんちゃんと掃除せぇやほんにもう......
「どうかしたかいお嬢さん」
「......何が?」
はーいにっこり笑ってー 気取られたらあかんよー?
イゾウさいど
「アーシェ君!」
にゃあ
「今日、今回は君の初めての上陸である!」
にゃあ
「心してか「るせぇよい朝からぎゃんぎゃん」あぶっ」
テンション最高潮でナースの編んだマフラーを巻いたアーシェの前にしゃがんでるサッチの髪をマルコの膝が潰した。あーあ サッチの野郎2時間は降りれねェな。てかアーシェ返事すんなバレてェのか
ビスタとの修行で、でんぐり返しから受け身擬きへと進化したりぎこちないながら躱せるようになったりと上達はしていった。が、ちっとタイミングミスって小せェが切り傷こさえるようになってきた。正直いつまでも隠してるつもりはねェ、それとなく判明してそれとなく受け入れて、それとなく幸せかつ面白く暮らしていければいい。そのための人の形での戦闘訓練だ.........てのを考えてることを俺はアーシェに話してない
まぁ、だからと言っていつまでも俺のお古、ってわけにもいかねェから服を買いに降りた。わけ、だが
でもなーァ.......女の服なんざ野郎が買うもんじゃねェだろ、と、咥えただけのキセルを動かしながら陸を歩く。
「せーんせー!!!」
「せんせー!!」
「「「おーいしゃーのせーんせー!!!」」」
「はいはいなんでーすかー?」
前を行くガキがいきなり大声を出しながら近くのあばら家に駆け込む。返ってきたのは女の声、ちらりと覗き見れば射干玉の長い髪を後ろに束ねた女がガキに手を引っ張られてあばら家から出てきた。
「おもちゃ直して!」
「......あんな? お姉さん怪我やら病気やら治す人であってネジとんだおもちゃ治せる人とちゃうから」
吹きかけた。笑い声を出そうとする口を押えてそっぽを向く。ガキの握ってるのはもう修復不可能ってくらいに壊れた動物の形だっただろう玩具。お前明らかに踏みつぶしただろ
どこか、俺の故郷を思わせる容姿のそいつはしゃがみこんで未だに直せとぎゃんぎゃん喚くガキと目を合わせる。1回息をして「あんな?」と呟いた
「お姉さんの治せるものは?」
「けが?」
「びょーき!」
「ふく」
「あかん、最後だけ違う」
「でも僕の服直してくれたじゃん!」
「俺んちの母ちゃんよかうめぇもんな」
「おいコラバカ息子ォォォ!!!」
「「「ぎゃーーーー!!!」」」
近くにいた親に聞かれて逃げ去って、もう米粒くらいになったガキを銀色の目を細めて見送って、手元に残った玩具を弄り始める女、細い指が土だらけの表面をなぞって、「やっぱ無理かなぁ」と零した
「ちょっといいかい、センセイ」
「あ、さっき笑っとったお人」
「気を悪くしたんなら謝るよ」
「気にせんといてください 白ひげのお方に謝らしたらうちの首なんかポーン飛んでまうよって あんさんあの白ひげ海賊団の隊長さんですやろ?」
マルコや親父みてぇに目立つ様なことしてねぇから、服で把握したんだろうという考えは付け足しのような言葉で消え去った。
「俺を知ってんのか?」
普通の医者じゃねぇなと思い始めてふと、先生の下げてる鞄に目が言って合点がいく。Doctrine Kureha......ドラムの魔女か
「“千弾”のイゾウ様、お噂はかねがね」
「“マスターオブ医者”の知り合いに知られてるたぁ俺の名もまだ捨てたもんじゃねぇな」
「その人んところで使いっぱしりやっとりましたカティア言います。どうぞ良しなに」
つかいっぱしりが傷の少ないお古なんざ貰えるかよ、という突っ込みを抑えてこちらこそと返す。外っ面で話してるのはお互い様だ。
「そういえばなんや用あったみたいやけど」
「そうだった、先生さえよけりゃだが」
Will you go on a date with me?
(お、固まった)
(ななな何やのこのお人思考が読めへん)
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通称花ちゃん。カティアちゃんです。どうぞ良しなに