マルコさんの部屋のドアには小さな僕ら専用の入り口がある。ステファンさんを拾ったときに大工の人が作ったらしい。「昔は俺の部屋に入り浸ってたんだがなぁ、親父の方に懐いちまった」と少し眉を下げて笑うマルコさんを思い出しながら扉を鼻で押して開ける。
カタンと音がしたの気づいたのか、机に向かったマルコさんがこっちを向いた。



「ステファンの所でも行ってきたかい?」



ううん、マルコさんに内緒のところ



「かまってやりてぇがもうちょっと待ってろい」



大きな手で僕を撫でるマルコさん。やっぱりこの手が一番好きだなぁと思うのは何でだろうか。


構わないよと一声鳴いて、机の下に敷いてある柔らかい布の下に潜り込んでから隙間から覗きこむ。アリカのお姉さんが布団にってくれた。



ちっちっちっちって時計の音と、マルコさんの持ってる羽ペンが紙を滑る音、遠くに感じる波の音くらいしか聞こえない部屋で、くあ、と1つあくびをする。





無言が温かいなんて初めて感じた。




「眠いかよい」



うん、すこし、ね・・・あ、でも起きてるよ もうちょっと頑張る



「無理して起きてなくてもいいよい いい子に寝てろってんだい」



伸ばされた手に掬われて、足の上に乗せられる。上にばさっとかぶせられた布団から顔を出して見上げれば、目を細めて僕の首をカリカリと掻くマルコさん。



「湯たんぽ もう少ししたら冬島の気候に入っちまうから頼むよい」



ふゆ、じま......ものすごく寒いってことでいいのかな。レインベールは年中ツユ? っていう気候だったからどのくらい寒いか分からないけど、マルコさんが寒いって言うんだ。ものすごく寒いって事にしておこう




「ねーんねーんーころーりーよーぉと......」



こんなんだったかねいと口ずさむ曲は、何だろう、不思議な音程だった。



でも、なんでだろ.....眠い......























「寝た、かい」



口を少しだけ開けて仰向け状態で寝るアーシェの頭を爪で軽く掻きながらまた書類に目を向けた。猫は寒さに弱いからな! と航海士の連中が言ってたしなるべく暖かくしといた方がいいんだろう。



進まなくてイライラしてた書類がアーシェが入ってきただけで少し作業スピードが速くなった。気がする。気持ちの問題だろうがイライラもしてねぇからマシだ。



「.........タマ」




ぽつと、未だに消えねぇアーシェのあだ名を呼んでみる。反応なし。



「タビ」



反応なし



「.......アーシェ」



ぴこんと目を開いて眠たげに呻くアーシェ。少しの罪悪感を持ちながら「寝てろい」と頭を手で押さえれば、喉を鳴らしながら体をうつ伏せにしてまた寝に入った。




ひゅう、





しばらくしてから床やら壁の間から冷たい風が入るようになってきて、仕事もある程度終わったからアーシェを抱えて布団に入る。



肘をついて小さな寝息を立てるアーシェを撫でる。拾った時の怪我は大体消えて、筋や骨にも異常はねぇと言われて、アーシェから包帯やらを取ったのは数日前。全快ってことでいいだろうとこの船の船医であるヤガルのじいさんが言ってた。




「.......ふしっ」

「くしゃみか?」



数回奇妙なくしゃみをしてまた寝息を立てるアーシェを抱き寄せて布団を更にかぶせる。寝返りで潰しちまいやしねぇかと最初はびくついたもんだがもう慣れた。寝相良くて良かったとここまで思ったことはねぇ。



「おやすみ アーシェ」



ぬくぬく、ぽかぽか



「今度の島で分厚い毛布でも買うかねい」




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どんだけ仲良くなったかってこんくらいです。財布のひもがゆっるゆるになるくらいには甘やかしてます
子守唄はイゾウさんにおしえてもろた


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