カガリビを遠目で見たり、釣り上げられた海王類の調理される様を見続けたりといった自主訓練は、炎に対する怖さを更に大きくするわけでもなく小さくしていってくれたらしく、一週間後にみっともなく震える手でなんとか火のついたライターを握れるようになったのをイゾウのお兄さんに見せると、「おし!」と笑顔で僕の頭をぐっしゃぐしゃにした。服は未だにイゾウさんのもので、さらし、だかを胸辺りに巻いている。布の意味はまだ分からないままだ。
人の姿での戦闘能力はマルコさんを守るという目標に必要なのかと問われれば答えに困るのが現状。でもやり方は多いほうがいい。遠くない未来にバレるとしても、傍にいられる最後の時までマルコさんを守っていたい。
「そう言やァアーシェ、人の姿ってのは体力使うもんなのか?」
「うん、1日持つくらい・・・寝てるときは猫じゃないと無理みたいだけど・・・」
やっと吸えるとキセルと呼ばれた煙草らしきものを咥えたまま問うイゾウのお兄さん。「意識の問題か・・・」と呟くイゾウのお兄さんがじっと僕を見た。
「その耳と尾っぽは仕舞えねぇのか」
ひょこひょこと一切僕の考え通りに動かない耳と服の下で窮屈そうに動くしっぽは猫のもの。唸って消そうと努力しては見るものの、どちらも消える気配がない。
「精進、します」
「ん、」
カンッと木でできた箱をキセルで叩いて中の丸いものを出すイゾウのお兄さん。来たな、と口だけが動いた。
前に言っていた先生、だろうか。今更逃げ隠れるような考えは捨てる。そんなの、僕を知ってそれでもいることを許してくれてる人たちに失礼だ。
「つーことだビスタ コイツお前の生徒な」
「開けた瞬間にそれかお前は」
立派な髭に長い帽子のビスタのお兄さんが入ってきた。僕を見て「なるほどな」と呟いているあたり、僕のことは知ってるんだろう。正直混乱しそうだったからありがたい。
さして交流もないんだが大丈夫かと呟くビスタのお兄さん。交流.......あ、
「ニ、ボシ......? ありがとね、ビスタのお兄さん」
「.......お優しいこって」
「イゾウ、黙れ アーシェは忘れなさい」
マルコさんがビスタのお兄さんからもらったと差し出してくれたニボシは美味しかった。忘れなきゃいけないのかとしょげればイゾウのお兄さんが笑いながらビスタのお兄さんを見る。「いーけねぇーんだー」「.....すまん、言い方を間違えた。忘れなくていいから秘密にしておいてくれ」。約束かな。分かった。
「修行するとなれば、修練場か? 人いそうなもんだが」
「一か所当てがある。絶対ばらすんじゃねえぞ
んじゃァ行くか」
「お前も来るのか」
「お手並み拝見してェじゃねェか」
戦闘準備、いざ刀を握れ
強くなろう 今のままじゃダメなのは把握済みだ