「にゃんこ〜〜〜〜!!!」
お姉さん、苦しい。ぎぶぎぶ
豹柄の靴下をはいたお姉さんはここのナースという仕事をする人たちらしい。僕を撫でたりつついたりする手は休むことがない。た、助けてマルコさん
「可愛いー.......ふわふわっ さすがマルコ隊長! 初めて見たときあんなに毛ボロボロだったのにここまで再生できるなんて.....っ」
「ちょっとリズ触りすぎ! 変わってよう!」
「ヤダこの子白靴下履いてる!」
「可愛い〜っっ そーだ、お揃いにしちゃいましょうか!」
「いいわねぇ! 白いニーハイあったかしら」
「アーシェちゃんちょっと待っててねぇ!」と船の中に入っていくお姉さん達。良い匂いがしたけど少し怖かった。
命名記念と改めてよろしくな記念、と不思議な垂れ幕を付けたこの宴会。確か僕が初めて乗った日も猫乗船記念と宴会を開いていた気がする。よほど宴会が好きらしい。ちなみに垂れ幕の製作者はラクヨウのお兄さん。フデという筆記用具で勢いよく書いた結果隣にいた僕が黒い液体まみれになったのは少し前のこと。
「大丈夫かアーシェ」
平気だよお父さんと、答えの代わりに一声鳴けば、ぐららららと変わった笑い声をあげるマルコさんのオヤジ。今日から僕のお父さん、らしい
初めて会ったときは大きくて怖かったけれど、ゆっくり、僕を怖がらせないようにという配慮なのか少しずつ近づいてくしゃりと僕をなでる指先はマルコさんと同じくらい安心できて、今ではすっかり恐怖心は消え去った。優しい人、温かい人。
.........そして僕は今、別の恐怖心を感じている。昔感じたことのあるこの感じ、そうだ、足をくじいて動けなかった大昔、目の前を大きな蛇が通った時だ。
「よォお嬢ちゃん、ちっとばかし顔貸しちゃくれねェか」
捕まった。目の前で伏せた目を怪しく光らせながら顔を僕に寄せるのは紫色の服を着たイゾウのお兄さん。さっきまでの視線の主はきっとこの人だ。
「どーしたよイゾウ」
「なァんにも、このお嬢ちゃんに似合う紐でも探してこようと思っただけさァ?」
何か読み物でも読み上げるようなゆるりとした口調でサッチのお兄さんに返すイゾウのお兄さん。「ほどほどになー」と送るサッチのお兄さんの髪の毛をまた折ってやろうかと思ったのはしょうがないことだと思う。
* * *
さっち さいど
「ひえー、怖かった。アーシェちゃん大丈夫かしら?」
「心配ないさ。あの子は確信を得るまで手なんかだしゃしない............あ、カルバッチョおいしい」
「光栄光栄」
酒瓶を煽ってふうと息をつくアリカ。イゾウがアーシェちゃん抱えて船内へ入っていくのを見送りながら、俺はアリカの横に戻って握り飯を頬張った。あ、おかか。
「気づいてたのは、俺とイゾウと姉ちゃんと・・・」
「勘のいい子は違和感感じるだけだろうな おそらく親父様も分かってて知らぬふりをしてるんだろ」
アーシェちゃんがただの猫じゃないと思い始めたのは出会った瞬間だった。俺のリーゼントを叩き折った瞬間にびくついて申し訳なさげに見上げる視線が、どこか人間じみていた。
飼い猫だったならしょうがないなと思いもしたが、会話の節々に、俺の喋ってる言葉を理解しているかのようなリアクションをとる。
そして何より。話しかけたら話し終わるまで人のそばを離れない所が違和感を増させた。普通なら何か食べ物でもチラつかせねぇ限り逃げてくのが猫だと俺は思ってる。つかチラつかせてもスタスタ無視して去ってく生き物だとすら思ってる。
生き物にやたら好かれる船員にあまりすり寄らないというのも違和感ポイント。
「イゾウは視野が広いからなぁ・・・
そこらにできた小さな砂山にすら興味を抱く子が目の前の不思議を放っておくとは思ってなかったから近々と思っていたが・・・宴最中に連れてくとは」
「あ、マルコが追いかけていくべきか迷ってる」
「サッチ」
「おう」
「任せた」
「いえす よあ はいねす」
歓迎しましょう my family
「イゾウキレてなかったかよい」
「墨まだ残ってたのに気付いたとかそんなんだろ きれー好きだからあのお兄さん」