凛久さいど




寮のご飯は何故か土日がない。だから土日は大体の人が自炊したご飯を食べているけれど、私は専らコンビニ弁当だ。それか抜く。




それを陳宮さんの前で言ったら正座で怒られた。




「よろしいですか凛久殿! 食事は何よりの基本、基本ですぞ! それを蔑ろにするなど何事か!」

「いや、包丁使えなくて」

「言い訳無用! れたすは切るより千切った方が味が落ちませぬ。最近は進んだものでかっと野菜なるものもあります故品数は縛られますが困ることはありますまい!」



陳宮さんが指を振る度に音もなく切れていく野菜。まるで魔法使いのようだと隠れて笑えばギロリと睨まれたので直ぐに止めた。桑原桑原。



「お小言が母親のようですね」

「つまみ食い厳禁っ」



良い加減しびれてきた足をつついて、あまり感触のない足に少し危機感を抱いたところで、くつくつ音を立てる鍋に指を突っ込む法正さんの手を弾いて怒りの矛先を変更する陳宮さん。助かったと思った瞬間トントンとノックの音がした。
来客にも慣れたもので、浮かせていたものや持っていたものを音も立てずに床や台の上に置き、物から離れる。以前陳宮さんの萌袖がS字フックに引っかかって棚が倒れた時の教訓だ。




扉の奥から聞こえる自分の名字に返事をして、ノブを捻る。立っていたのは寮母さん。握っているのは電話の受話器。



「呼び出さない方がいいと思って・・・警察の方から」

「・・・・・・・

あ、はい・・・ありがとうございます」





受話器を受け取る。遠くのほうから流れているような保留のメロディが切のいいところでボタンを押した。





「電話変わりました。凛久です」

「おっ 久しぶりだな凛久ちゃん! 高校生活楽しんでるかぁ?」


電話を耳に当て声を出せば、数年前とあまり変わらない声が受話器から流れた。いや待て、と答えようとした言葉を止められる。このやり取りも懐かしい。



「ちょっと最近大変なことあったけどなんとか解決したばっかと見た!」

「正解です。」



電話の奥で咳払いが聞こえた。それに「あ、すいませーん」と軽い謝罪。



「あー怖かった。睨みまくってんだもんよ夏候惇殿・・・」

「お二人ともお元気そうでよかったです」

「おー元気元気・・・・



あー・・・で、さ、俺の勘だと何で電話来たか分かってるだろうけど・・・一応言うな?」



言いづらそうな声が、ノイズと一緒に聞こえてきた。はいどうぞと呟いて、地味に震えていた受話器を持つ手を、包帯が巻かれたもう片方の手で握る。



「お母さんな、起きた。」

「そう、ですか・・・はい、ありがとうございます・・・李典さん」






























2、3言葉を交わして電話を切る。頭は石でも入っているかのように重い。心配そうに眉を八の字に曲げる寮母さんに電話を返して、扉が閉まるまで見送って、閉じた扉を背中に押し付けて長い溜息をつく。



「脳みそ1回シュレッダーにかけたい」

「お望みとあらばやりますが?」

「暗喩です暗喩死んじゃうから止めてください」



安易に物事を呟けない状態であることを失念していた。でも、頭の石は消えてくれたようだ。少し軽い。
そろそろではないかと、李典さんめいて言えばピンと来ていたのだ。今更驚くことも無い。寧ろよかった。このまま起きなかったらどうしようと何度考えたことか。



「・・・先ほどの電話は?」

「昔、お世話になった刑事さんからです」

「・・・よもや前科「ありませんよ」



とんでもないことを言いかけた陳宮さんを止める。一応私の経歴は真っ白な方だ。完全に白と言うわけではないけれど。



「母親が、その・・・長い間意識無くて、入院してて、でも、目、覚めたって」

「警察、となると何らかの?」

「・・・・はい、陳宮さんに会った・・・もうちょっと後くらいだったかな・・・そのくらいの時に、ちょっと」



つまりつまりの言葉になるほどとそれ以上を追求しない陳宮さん。あ、折角の陳宮さんのご飯ちょっと冷めちゃったかな。申し訳ない



「その刃物嫌いの所以、ですか」

「はい、あ、ごめんなさい、何か、変な空気になってしまって」










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最近この段階進んじゃって良いの? って自問自答しながら進んでるこの頃


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