「あなたは・・・その、人、ですよね」

「なんで幽霊って思ってくれなかったのかしら・・・・」



不満がにじみ出る声色で聞こえる声に、聞き覚えはなかった。ということは許可を得て学校内にいる凛久と同じクラスの人ではないということ。ガサガサ聞こえる低木の後ろからひょっこり出てきた赤いパーカーの少女はついた木の葉を払いながら此方を見る。同い年か、少し下くらいだろうか。




「っあなた背中に憑いてるわよ!」

「ま、待ってください陳宮さんは違うんです!」



胸元から一枚の紙を出しながら近づく少女と陳宮の間で両手を広げて声を張り上げる。多分、おそらく、この少女は



「落ち着いてもらっていいですか・・・今、肝試しやってて大きな声出すといろいろバレかねないので・・・・ごめんなさい、孫尚香さん」

「・・・・なんで私を知ってるの?」



少女、もとい尚香は訝しげに凛久に問うて、まぁ騒がしくするつもりはないしねと凛久を木々の中に誘う。



「お兄さんに、妹さんが最近変だという話を伺って・・・その時、孫さんのおうちに入った時の空気と、孫尚香さんの纏ってる空気が似ていて・・・」

「権兄様ね? 心配性なんだから・・・あ、あと苗字つけないくていいわよ? あ、あなたの名前も教えて?」

「ええ、と・・・分かりました。凛久と言います・・・尚香さん」

「凛久・・・・父様が言ってた霊力の強い子かしら」

「はい」





凛久殿は孫家ともお知り合いなのですなと、少しいつもの明るさの消えた声で話す陳宮を見止め、首をかしげて尚香は足を止めて問うた。



「あなた、神様よね? 少しだけだけど神気を感じるわ」

「いえいえ、私は社に住み着き信仰心を力としていた不届きもの。いわゆる成り上がり者です。まぁ最後には神に仇なす者としてしばらく封印されておりましたが」



神様に護衛を頼んでいたのかと、凛久は申し訳なさで身震いをした。くるりと回って笑って凛久を見る陳宮



「心配せずとも、貴方は私にとって恩人、それに神様の地位なぞすでに無くしておりますゆえ」



少し寂しそうな声だと思った。ガサリと密集した木の隙間を抜ける。おかしいな、確かここにお堂はあったはずなのに



「結界ですな」

「肝試しから守るためにさっきから準備してたの・・・でもあなた達が来たってことは間に合いそうにないわね・・・」





悔しそうな表情をしてから、ここまで来たら気づかれないかしらと凛久の手を引っ張っていた尚香を、ねっとりとした重低音が止めた。






「それ以上近づかせると、長々準備した結界も水の泡ですよ」





バサリと、聞き覚えのある羽音がした。面倒そうな声も、聞き覚えがあった。



「・・・法正、さん?」

「貴方が来るまでに、何とかしたかったのですが」



ふわり、着地して、月を背に凛久の前に立つ法正。物語や映画に出てくる吸血鬼のようだ。悪魔なのだが。
少々不機嫌な視線を凛久に向けて、視線を尚香に戻す。


「一応不可視にはできましたので心配はないかと・・・あとは凛久殿さえ近づかなければ」

「私、ですか」

「貴方の血にはいろいろ効能があると言ったでしょう」



まあ気づいたのは其処の巻物に会ってからですがとの呟きに、成程と頷いたのは陳宮だった。曰く、それで私の封印を易々と解いたのかと。




詰まる所の、解呪の力





「すごすぎませんか比内地鶏」

「まだ言いますか」





かいじゅ、と尚香の呟きに、法正が眉をひそめた。両手を胸元で強く合わせて、真剣な目で凛久を見る。




「・・・出会ったばかりの人にこんな事頼むのはダメなんだろうって、分かってるけど・・・


お願い凛久・・・玄徳様を助けて!!」










できれば関わってほしくなかったと、法正は1つ、息を吐いた。





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劉備さんイズヒア。


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