「この学校が立って1年目・・・俺らが入る前の先輩が1人、入院してそのまんま死んじゃったらしいんだよ・・・・
結構な音楽好きで、よく音楽室に入り浸ってたらしい・・・・」



雰囲気を出すような喋り方で、委員長は話し始めた。話自体は怖くないのだが、正直凛久は斜め後ろから聞こえる夕食直前の喜びを湛える声をどうにかしてほしかった。果たして、人間の刺身というのは美味いのか。



「あ、私ピアノ弾けるー」

「よっしゃ! せっかくだから全部試してみようぜ!」



まったくもって迷惑な話である。着いた音楽室のドアを閉め、颯爽とピアノに座る茶髪の女を暗闇でも判別がつくくらいキラキラとした目で見る残りの2人。新しい幽霊なら大丈夫という謎の理論を展開した委員長を陳宮は鼻で笑う。暗いと影が見えないのが難点だ。陳宮さんお願いしますと、空気で話す。



空気に合わせたのか選曲はひたすらにゆっくりな「エリーゼのために」。どうせなら「天国と地獄」でも流してほしかったと口の中で呟いた。



「あら、素敵な音色ですね」



来た。ふわりと微笑んでいるのが分かるような声が耳に届いた。害は無いようですぞと陳宮が答えた。よかったと思うも束の間、唐突に鳴り出したアコーディオンに黒髪の女が小さく悲鳴を上げる。少し首を上げて楽器が置いてある方を見ると、サラリと亜麻色の髪を靡かせた1人の女がいた。明らかに人間ではないと判別したのは背中に生えた髪と似た色の鳥の羽根。姿も声も、彼らには届いていないらしい。



「で、出た・・・ッ」

「ヤバくない・・・?」



委員長と茶髪が声を発する。止まった演奏を誰も咎めはしない。変わらず鳴り続けるアコーディオンから離れて、ダッシュで扉に飛びつく。しかし扉は動かない。お話の通りである。



「邪魔は入りませんので、どうか続きを弾いてはくださいませんか?」



のほほんと問い掛ける彼女の力であることは理解できた。彼女としては外からの邪魔を止める目的なのだろうが生きてる人間から見れば逃がさねぇぞと閉められたようにしか見えない。
害がないという言葉を信じて、ここはあたかもこういう時の対処法であるかのような体裁で彼女を納得させるしかないと思い立った凛久は、両手を組んで息を吸った。



「演奏は終了しました 演奏は終了しました 演奏は終了しました」

「そうですか、残念です・・・」



本当に残念そうな声が聞こえたのち、唐突に扉が開いた。尻餅をついて廊下に出る彼らから見れば、凛久が解決したように見えるのだろう。目を見開いて凛久を凝視していた。



「・・・昔通ってた学校でも似たような怖い話あったから・・・解決方法一緒でよかったよ」



誤魔化すのは昔からずっとやっていたからお手の物で、なんだそっかすごいなと納得してくれた3人が先ほどよりも意気消沈した様子で怖々歩いていくのを眺めながら、凛久も歩き出す。










ルートというルートが決まっていない故に次はどこに行くかという話になり、委員長が7つ目に行こうと提案した。以前触ったが何もなかったという経験故の提案で、何も無いならいいかと茶髪も黒髪も頷いた。




何も知らない、何も分からないがとかく嫌な噂が立つ、学校裏にまばらに生えた木々の間にポツリと有るお堂。凛久もあまり近づいたことはなかった。


風でザワリと鳴る木の葉にビクつきながら歩く3人の前を歩く凛久。先ほどの一件で、何故か寺生まれの○さんのような扱いを受けてしまった。まぁあながち間違ってはいないのだが。






「・・・・レ・・・・タ・・・・レ・・・・」







「お、おい・・・・なんかしゃべったか・・・?」

「喋ってないよ・・・ちょ、誰かいるの!? もー脅かすのやめてよね!」



唐突に、どこかから聞こえる声に虚勢が見え見えの声色で答えた。女の声だった。風と木の音でぶつ切りにされた声は、だんだんと大きくなっていく。



「・・・サレ・・・タ・・・サレ・・・・





立チ去レェェェェェエェェェエェエェエエェエエェェ!!!!!!!!!!」




突然の声に、金切り声をあげて逃げ去る3人。置いてけぼりにされた凛久は声のした方向を見ていた。その表情に恐れはない。





危険なものが近づいたら言うと言ってくれた陳宮が何も言わないということは、つまりそう言うことなのだろう。



この声の主は、見えざるものではない。







「タァァァチサレェェェエエェェエエェェェエエエェエェェエエ!!!!!!」

「えっと・・・・喉、大丈夫ですか?」











「だ、大丈夫・・・よ・・・」

「よかった」



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タチサレタチサレで分かる人は同い年か年上かな。
七不思議全部やろうと思ったけど蛇足にもほどがあるので飛ばしました
全員武将の皆さんにしようって考えました。
全部当たった人はすごいですね。たぶんいない。


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