上目遣いで微笑みながら演劇の挨拶のように頭を下げる男、もとい陳宮。凛久は頭の中で最近思い出したばかりの記憶と照合を試みていた。
「ええと、俺は陳宮殿を持ってきただけだから、もう怖がらなくていいよ・・・まぁ、難しいだろうけど」と後ろ向きな発言をして窓から飛び降りた徐庶はもういない。少し可哀想なことをしてしまったかと悩む頭を振り切って目の前の陳宮を見る。この丁寧にもほどがある喋り方、封印、書簡、お礼・・・



「郷土資料館の時の人、ですか」

「覚えておいでで。まさに、まさにあの時凛久殿が手にした書簡に封じられていた者で相違ありませぬ。あの時は急ぎの用がありました故、まともな礼もできず申し訳ない



・・・・して、凛久殿、そちらの明らかに邪心しか持ち合わせていなさそうな傲岸不遜の輩は何者ですかな?」



いきなりの喧嘩腰、まさかの喧嘩。
腰自らを悪党だなんだと称しているのだから怒るはずもないだろうと高を括りながら法正の顔を見上げる。実際、法正はいつも通りの表情をしていた。表情はだが。



「ほ、法正さん・・・?」

「凛久殿、今すぐその書簡を貸してください。すぐ返しますから、まぁ形と色が少々変わりますが」

「燃やす気ですよね、報知器鳴るんで嫌です」

「嫌悪感を催すだけの物は有ることすら許せない性質でね・・・おそらくその書簡がこの小男の依代でしょう」



この凍てついた空気は何なのだと、初夏の風が通り抜ける窓を見ながら思った。指先に小さな火の玉を作り出し、凛久の握る書簡を頂戴すべく手を差し出す法正、ここで陳宮の「ヘッ 脅しとかダッサ」と言わんばかりの溜息と視線が地雷の多く埋まる地をさらに踏み荒した



「その上短気、短気ときますか・・・蓼食う虫も好き好きとは申しますが凛久殿、お供にする者はよく吟味されよ」

「あ、えっと、お供じゃないですよ?」

「ならば凛久殿は何故、何故このようなものを傍に? 主従や友人といった関係ではないように見えますが」

「まぁ・・・家畜・・・というか・・・乳牛と牧場主・・・みたいな・・・?」



沈黙、その後即行。陳宮は苦虫を噛み潰した挙句不運にも嚥下してしまったような表情で法正の背中から凛久を引きはがした。最早軽蔑の域を超えた意を、陳宮は法正に向けていた。



「当人が納得しているから別に問題はないでしょう」

「おいたわしや凛久殿、このような者に目をつけられてしまったなど・・・」



デンと何か文句でもあるのかと言わんばかりに腕組みの状態で立つ法正に、陳宮は大仰な身振りで落胆の意を示した。凛久はもはや蚊帳の外だ。帰ってもいいかな、あ、ここ私の部屋だった。



「凛久殿!」

「うぇはい!」

「この者に無体を、無体を働かれたときはいつでもこの陳公台をお呼びくだされ!! 武に自信はありませんが必ずや、必ずやお役に立って見せましょうぞ!!」

「このちんちくりんがどこまでオヤクに立てるかは分かりませんがよかったですね凛久殿、スケープゴートの出来上がりです」









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陳宮さん見てると犬夜叉の邪見を思い出します。
絡んでないけどこの二人仲良くなさそうだなって思ってたら登場決定。徐庶さんまだ出ますよ。結構重要なキャラですよ。


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