寮があるという至極単純な理由で凛久は選んだ高校には七不思議があったり謎のルールがあったりと、凛久のSAN値を減らすことに余念がない。
入らなければ分からない話というもので、実際今どきのJKが「私の学校出るんだよねー」と噂話のテンションで話していたところで、新築3年目の外装内装ピッカピカの学校になぜ出ると信じることができようか。
受験の日に何らかの気配を感じたものの、そこまで気持ち悪い感じしないしいいかと軽い気持ちで入学許可証を受け取り、準備を進めていた凛久は入寮当日まで学校全体を覆う禍々しい”何か”に気付くことができなかったのだ。







そして入学後、一週間も経たぬうちに奴らは凛久に接触を図ってきた。
前述したとおり、コマンド『無視』でどのような化け物だろうと最後には逃げて行った。が、此処の奴らは凛久を見えていて当然のように扱ってくる。見えないふりを続けていた時に「無視たぁいい度胸じゃねぇか」とメンチを切られたときは戦場さながらの戦慄を覚えた。今まで以上に奴らの近さは、凛久に恐怖だけではなく吐き気も植えつけて去っていく。いい加減にしてほしい。近づいてくる意味が分からない。いると認めてこんにちはと言ってしまえば奴らも止めるのだろうか。試しに行ってみようか、何てことを思っていた、その矢先




「なにこれ・・・・」




アニメや漫画の世界にほっぽり出されたのかと疑った。夕焼けの赤以上の赤が校内のコンクリートで出来た道の半分を塗りつぶしていた。引きずるように伸びたその赤は矢印のように校舎の裏に伸びている。対応に困るって何これ、誰の、と言うか、これは本当に血なのか?



回りに人がいないからこれが人間の血かどっちか分からない。どうすればいい。いろんなものが振り切れた頭はとにかく何も知らないふりをしてながらのチラミという選択肢を・・・とれずに・・・



「っ大丈夫ですか!?」



大声を張り上げながら校舎裏に回る。大丈夫だ。回りに人はいない。いたらいたで唐突に走り去った人間の事など余程暇でない限り歯牙にもかけるまいと、行動した後の頭は嫌に冷静だった。立ち止まって血の先を見る。影になった校舎の壁、暗くなったそこに凭れて蹲るような形で座り込む明らかに人ではない生き物がいた。
方膝を立てて埋めた顔をゆっくり上げてこちらを見るそれ、ぎこちなくはためく蝙蝠のような羽は所々ボロボロになっていた。



「・・・だ、大丈夫、ですか?」



震える体と声で再び同じことを言う。足はバンビ、鼓動はデスメタル。とても人(人ではないが)に安全を聞いて普通の回答が得られるステータスではないだろう。
握り締めるように覆った肩からは未だに血が止まっていないらしい。致死量とか大丈夫なのかと訊きかけたその時、



「貴方、は・・・ああ、






丁度いい」






何が、と訊く時間はなかった。彼は本当に怪我人かと疑いたくなる速度で凛久の至近距離に入ると、凛久の顎を掴んで上を向かせる。




「え、は・・・?」

「静かにしていただけませんか」



ガブッ



「・・・っな、う、わ・・・っ!」



ブツリと嫌な音の後に走る首筋の痛み、噛みつかれたと悟ったのは1拍子開けた後だった。
じゅるとゴクリという音が間近で交互に繰り返され、血の気が上から下へと降りていくような、貧血で倒れる寸前のような状態に陥った。気持ち悪い。視界がぐらつく。
本格的に意識を失う寸前の所で離れた目の前の男の口から伝う赤、あれは自分の血なのかとパニック寸前の凛久の目の前で、男はその血を指で拭って1ミクロンも残してたまるかと言わんばかりに丹念に舐め取った。



「まずはお礼を、貴方のお陰で助かりました。この恩はいずれ・・・と、その前に少々お話があるのですが聞いていてもらえますか?」



片手を胸に当てて仰々しくお辞儀をする男、見覚えがあると感じた時にはすでに遅く、座り込んで動けない凛久の手を地面に縫い付けるように押さえていた。
ジエンド、ゲームオーバー、おお勇者よと甦らせてくれる人はいない。いやにゆっくり動く頭で考えながら、自らが頭の中で呼んでいるその人のあだ名を呼んでみた。




「り、理科基礎の人・・・」



吸血ストラテジー


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