だいぶ仲良くなれたかな?
でも、やっぱりせいは俺の目を見てくれない。ぱちっと視線が交わるとふわっと逸らされてしまう。やっぱ、まだまだかな?
団長とお世話係
第四話
「失礼します」
いつものようにお掃除に来たせい。俺はすぐにそばまで行くと、
「!」
わざとらしく彼女の顔を覗きこんだ。最初こそ驚いたように大きな瞳がこちらを見ていたけど、すぐに視線は下に落とされた。
「団長、何ですか?」
「…いや?別に」
「…そうですか」
それだけ言うと、さっそく掃除を始めようとする。俺は動き出した彼女についてまわる。少し気にしながらも、掃除機のスイッチが入れられた。背を向けた彼女の前へ回り込んでもう一度顔を覗き込む。
「…団長?」
やっぱりすぐに逸らされる。
「なんですか?」
困ったような声色に、
「んー、なんでこっち見ないのかなぁと思って」
そう言うと、彼女は視線を落としたまま首を傾げた。
「見ない?」
「うん、ほら今だって」
「え?」
「全然俺の方見てないでしょ」
そう言うと、視線がふいに絡む。けれど、すぐに逸らされ、
「わたし、人と目合わせるの得意じゃないんです」
「…ふーん」
せいの持っている掃除機を取り上げてスイッチを切る。
「苦手は克服するためにあるんだよ」
「?」
「目を合わせる練習しようね?」
そのまま手を引いてソファに座らせる。俺も隣に座って、そして向き合った。
「ほら、見てごらんよ」
「っ…」
せいは一瞬だけこっちを見て、すぐに逸らす。
「もー、ダメだってば」
「…こ、こんなことやっても無意味です」
「無意味じゃないない」
「…」
「俺の不満の一つが解消されるよ」
「…不満?」
「そうそう」
「不満って」
「まぁいいからいいから」
せいは困ったように口を噤むと、下を向いたまま、
「…ほんとに得意じゃないんです」
そう言う。
「だから、克服するんでしょ」
「…」
「ね?」
せいはうぅっと唸ってから、不安そうに眉を下げた。俺はちょっと楽しくなってきて、せいの顎に手をかける。
「こっち見るの」
クイッっと持ち上げると、また驚いたように開かれる瞳。バチっと絡み合った視線は、しかしふいに逸らされる。
「もー」
せいはきゅっと口を引き結ぶと、俺の手を引きはがしにかかる。
「…は、離して下さい」
当然彼女の力で俺の手が離れるわけがない。
「ちゃんとできたら離してあげるよ」
「っ…」
「ね?」
そう言って彼女の瞳を捕らえようとするけれど、合わせれば逸らされ、また合わせて逸らされて。大きな黒眼はくるくると様々な方向に動いていた。
「せい」
「…」
「いい加減にしないとひどいよ」
「う…」
少しだけ戸惑いの色が浮かんだ瞳。ゆっくりと俺の瞳に狙いを定める。けれど、3秒もしないうちに、
「やっぱ無理です。必要性も感じません…」
消え入りそうな声。彼女は両手で目を覆ってしまった。
「ふーん」
けど、彼女の耳が少し赤いところを見るに、これは苦手というよりも恥ずかしがりなのではないかと勝手に解釈する。どうしたもんかと考えて、彼女にかけた手を離すと、
「…失礼します!」
せいはここぞとばかりに身を翻し、掃除機を抱き込むと部屋を駆け出て行った。
「…」
逃げられた。
20111013
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