いつも思っていたことがある。ここの食事、切り刻まれた野菜がとっても汚い。不揃い。小さかったり大きかったり。だけど、味は美味しいんだよね。見た目より味とはまさにコレ。





団長とお世話係
第五話





「え?食事ってせいが作ってるの?」
「そうですよ」
「知らなかったな」
「まぁ、わたしは団長の分しか作ってないですけどね」
「え?そうなの?」
「そうですよ…団長知らなかったんですか」
「うん」
「いつも団長のだけメニュー違うのは気付いてますか?」
「うん、それは知ってた。せいがいっつも何食べたいか聞きに来るからね」
「そうです。団長が食べたいものを作れって言われています」
「阿伏兎に?」
「そうです」
「でも何で?」
「…」
「何で?」
「…団長が、前の料理人殺しちゃったからです」
「え?そうだっけ?」
「そうです…忘れたんですか?」
「うーん覚えてないな」
「…これまでの料理人、ご飯が美味しくないって言って団長が殺しちゃったんですよ」
「え、そうなんだ」
「…はい」
「だからせいが作ってるのか」
「…なんでか、団長わたしの作るご飯は美味しそうに食べるからって、阿伏兎さんが」
「知らなかったなー」
「…」
「ねぇ、今から厨房行こうよ」
「お腹すいたんですか?」
「うん、何か作ってよ」
「いいですよ」

そのまま2人で厨房へ行くと、

「何食べたいですか?」

せいがそう問う。

「んー、肉じゃが」
「分かりました」

せいは手を洗うとおもむろにまな板と包丁を取り出す。それから食材をいくつか出してニンジンに手を伸ばした。包丁をにぎる。

「え」

声をあげたのは俺だった。

「わ!」

ツルっとすべったニンジン。せいの手を包丁が掠める。

「…ちょっと団長、声あげないで下さい。危ないです」

え?ええ?俺のせい?
違うよね。せいは驚くほど包丁の使い方が下手だった。包丁が何度も彼女の手を掠めている。ニンジンの皮は、剥かれているというより、えぐり取られていた。なにこれ。

「ねぇねぇせい」
「…何ですか?」
「本当に料理したことある?」

そう言うと、

「いつも作ってますけど…」

不思議そうにせいは首を傾げた。そうやってよそ見しながらも、手は危なっかしくニンジンを剥く。

「あ、もーちゃんと手元見て」
「…?」

恐くて見ていられない。そう俺らしくもなく思ったので、

「こっち使いな」

引き出しから取り出したピーラーを差し出すと、

「あ、ありがとうございます」

素直に受け取ったので、とりあえず良しとして俺は包丁を握った。

「団長、何してるんですか?」
「いいかい?包丁はこうやって使うんだよ」

俺はジャガイモの皮を剥いてみせる。するとせいはキラキラと目を輝かせた。

「わぁ、団長、お上手ですね」
「俺はせいが下手なんだと思うな」
「うっ…」

せいはピーラーの使い方も下手だった。俺がジャガイモ3つ剥く間にようやくニンジン1本。

「…あんま得意じゃないんですよね」

確かにそのようだ。ぶきっちょだ。

「ねぇねぇ本当に俺の料理はいつもせいが作ってるの?」
「一応そうですよ」
「ふーん」

確かに思い返してみれば、いつも不揃いにカットされた野菜が出てくる。別にお腹に入ってしまえば変わらないし、気にしていなかったのだが、こういう訳があったのか。

「ちょっとさ」
「何ですか?」
「勝負してみよっか」
「え?」
「肉じゃが」
「肉じゃが?」
「どっちが美味しく作れるかやってみようよ」
「んー、勝てるかなぁ」
「それはお互い分からないでしょ?」

せいは分かりましたと頷く。
よし、料理なんて久しぶりだと思いながら包丁を握り直した。せいはだいぶ時間をかけて野菜を切る。俺は手際よくと野菜を煮込んでいく。せいは不慣れというよりは、やはりぶきっちょなようだ。煮込んでいる時も本当に大丈夫か?という感じで調味料をぽんぽん放り込んでいく。なんか見ていて心配になる。
でも、

「できました」

せいがそう言う頃には、美味しそうな匂いがたちこめていた。俺よりだいぶ遅れての完成だったけど、確かに見ためはいつも俺が食べているそれと一緒である。

「じゃあ、食べ比べといきますか」
「緊張します」
「はは、はいお箸」
「ありがとうございます」

お互いの作品をお皿に盛りつけて、並べる。

「いただきます」
「いただきます」

そして箸をつける。最初にお互いせいの作品から。一口ぱくり、もぐもぐ。うん、本当に俺の料理はせいが作っていたらしい。あんな無茶苦茶な作り方していたのに、味はとっても美味しかった。

「どうですか?」

心配そうにこちらを覗うせいに微笑んだ。

「美味しいよ」

言えば嬉しそうに笑う。
次は俺の作った肉じゃが。一口ぱくり、もぐもぐ。ん?…あれ?

「わぁ、美味しい…!」

せいはびっくりしたように声をあげた。

「団長、料理すっごく上手ですね!」

そう言うせいを見つめて思う。いや、あんま美味しくないかも。不思議に思ってもう一口食べてみるけど、結果は同じだった。なんか、せいの方が美味しい。なんで?
そんな俺の心情を知ってか知らずか、せいは美味しそうに俺の肉じゃがを完食してくれた。変なの。





20111013

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