阿伏兎の部屋からの帰り道、

「あ」
「あ」

せいとばったり出くわした。せいは照れたように笑うと、おでこをさすって、

「へへ、ごちそうさまです」

そう言った。その顔が可愛くて、なんでかこっちが照れた。





団長とお世話係
第九話





さっきまで気にしていたけど、気にする必要はないようだ。せいの笑顔を見て安心した。

「はは」

思わず笑えば、

「へへ」

せいも笑う。阿伏兎を殴ったことを一瞬で忘れた。

「この後は暇なの?」
「はい、とりあえず一息つけます」
「そう、じゃあ厨房行こうよ」
「いいですよ、お腹すいたんですか?」
「うん」
「何作りましょう?」
「いいよ、作らなくて」
「え?」
「俺が作るから」

言うと、見開かれる瞳。

「団長が作るんですか!?」
「うん、だって、せいは俺の作るもの好きなんでしょ?」
「はい!肉じゃがすごく美味しかったです」
「何食べたい?」
「え!…えと…な、何でもいいです!」
「はは、そう?」
「はい!」
さて、それは困ったな。何作ろう?










殴られた腹をさすりながら、仲良さ気に歩いて行く二人の後ろ姿を見る。まさか、地球人に落ち着くとは思わなかったなと。
まぁ、せいは天然で団長を操るが上手みたいだから、案外上手くいくのかもしれない…なんて思ってみたりする。だけど、団長の相手は大変なんだろうなぁ。










ちょこちょことついて来たせいは、厨房へ入るとまな板と包丁を準備する。

「なにかお手伝いします」

そう言うけど、

「いいよ。せいが包丁使ってるの見てると落ち着かないんだよね、危なっかしいから」
「…すみません」
「はは」

せいの持っていた包丁を取り上げて、ニンジンを手にする。

「オムライスとかどう?」

聞くと、顔がぱっと輝いた。

「大好きなんです」
「うん、決まりだね」
「すごいですね団長」
「ん?」
「オムライス作れるなんて」
「そう?」
「わたし、卵やぶれちゃってダメなんです」
「あー、想像つくよ」

恥ずかしそうに笑っているせいを見て、それからニンジンの皮を剥き始める。

「団長やっぱ器用ですね、手綺麗だし」
「そう?」
「はい、本当に戦場とかで暴れまわってるんですか?」

そう問うせいには優しい笑みがのっかっていた。戦場なんて知らない君のことだから、半分ファンタジーとして訊いているのだろう。

「まあね」
「全然想像できないです」
「せいはそれでいいよ」

戦場と彼女はどう考えても結び付かないし、結び付けようとも思わない。強さなんて期待しちゃいない。

「なんか…とても人を殺している手には見えないです」

しみじみと呟くように言う。俺は笑った。

「だからいいんだよ。せいにはそんなとこ見せるつもりないから」
「…」
「そこは、地球人と夜兎が相いれないとこさ」
「そうですね」
「だけど、一緒にいることはきっとできるよ」
「…」
「ね?せい」

言えば、安心したように笑うから、

「地球には返してあげないから、覚悟してね」

ふざけて言えば、

「ふふ、団長がわたしに飽きるまではここにいさせてもらいます」

と、ふざけた答えが返ってきたから、

「…飽きるの、何十年先か分からないよ?」

ちょっと真顔で返したのに、

「はは、じゃあ期待しときます」

やっぱりせいはいたずらに笑い流した。あれま、手強い。





20111014

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