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「小桜さんですか…」


代表取締役・村山久司というネームプレートをつけた、恐らくこの村山会計で一番権限のあるであろう人に美恵さんについて尋ねた。


「男性関係は特にトラブルとかはないと思いますけど…。
性格も温厚ですし、恨まれるような子ではないと思いますよ」


村山さんの言っていることは、確かにその通りで案の定他の社員の方も美恵さんは人当たりがよさそうというイメージを持っていた。


それから、もう一つ先程の菜々の質問とは変わり今度は私が質問した。


「じゃあ、美恵さんの周りでトラブルを起している男性は…」


「…まぁ、いないこともないんですが」


口を濁す具合にぶつぶつ言う村山さん。誰ですかと聞けば彼ですよと指差された。


「ん?何っすか?」


彼と呼ばれたその人物は丁度私たちと歳が変わらぬ程度の男。
茶がかった黒髪、若者を象徴するかのようについたピアス。
青と黒のネクタイも若干緩んでしまっていて様になっていない。


村山さんの話だと、彼―中野さんというのだが―会社の大半の女性社員に手を出しているらしい。
軽いセクハラで訴えられ、村山会計の前の会社をクビになっているらしい。


"チャラ男"と形容すれば分かりやすいだろうか。
"草食系"だの"爽やかイケメン"だの言われるこの時代じゃ少し遅れている気がするのだが敢えて口にはしない。…失礼にあたって美恵さんのこと聞けなくなったら意味がない。


「美恵の事っすかァ…別に特に気になる点はなかったっすよ」


中野さんが言うのはそれだけで、特に有力な情報は得られず終いだった。


・・・


「菜々、どうまとまった?」


「大体まとまったわ」


あずま荘の近く、並木図書館で事件について軽くまとめていた。


「まず、被害者についてだけど…名前は小桜美恵さん、年齢は20代ぜんは「きゃ!」だ、大丈夫ですか!?」


図書館のちょっとした勉強などの利用スペースに置かれたテーブルに向かい合う形の椅子。それらが五つほど。
その内私たちと一番近い椅子に座っていた老女が椅子から立ち上がり私たちの机の端にぶつかり荷物を落としてしまった。


恐らく老眼であろう、青縁の眼鏡をかけよさそうな杖をついた60代ぐらいの老女。


「ご、ごめんなさいね…」


「いえ大丈夫ですよ」


「あの、小桜美恵さん…と聞こえたものだから」


「?…知り合いの方ですか?」


「ええ。小桜さんといったら並木団地に住んでる方だけれど…」


「私たちが言っていたのも並木団地の方です。
…もし、ですが…美恵さんについて知っている事があれば教えて頂けませんか?」


「…で、でも…」


「すみません、怪しい者じゃないんです」


菜々も私も"月石探偵事務所"と書かれた名刺を出す。
怪訝そうな顔をしていた女性もその名刺を見、安心したように顔を綻ばせた。


「月石さんの娘さんなのね?
月石さんの事はよく知っているわ」


「父母の知り合いの方でしたか」


「ええ。
どちらかと言えば貴方達のお母さんよ、杏さんが通っていた毛筆教室の講師なの」


月石杏、月石椿―他界した父と母の名だ。


体の弱い母―月石杏は癌で亡くなったが、毛筆教室に通っていた事は母の日記を読み知っている。
母の日記については体の弱い母を支える様に必死に働いた父―月石椿に教えてもらったが、過労死によって父は亡くなった。


そう言われると、顔に面影があるわ。と老女が菜々を指した。
貴方はお父さんに似てるのね、と私を指し言った。


「紹介が遅れたわ。
私は里崎ミサという者よ」


団地で隣だし小桜さんについて話すわ、とミサさんは言い話し始めたのだった。


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