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「菜々?どこに電話かけて…」
翌日朝早く。
何度か、菜々はどこかしらに電話をかけては首を捻り、という動作を続けている。
「…!もしもし、美恵さんですか?ええ、はい菜々です。
あの、職場なんですが、どちらに?…浜並線の緑駅の…村山会計さんですね?
どうやら美恵さんだったようで、職場を聞く…ということは調べる、ということだろう。
携帯をパタン!と勢いよく閉じ、浜並線に乗るわよと急ぎ気味の菜々に小走りでついていった。
・・・
「…浜並線は高いけど、楽ね」
改めて痛感した、という風な菜々に頷く。
私達はこの浜並線をバイトやら通学やらによく利用している。
説明が遅れた。
浜並線というのは、市電…市営の路面電車である。
県内の端、臨海部に位置する浜海市と県内きってのオフィス街・ビル街である並木市とが連携し、路面にひいたものだ。
電車は、浜海駅から出て浜前駅、水連駅、星浜駅、緑駅、それから終点並木駅と続く。
水連駅は少し大きな作りになっており5両編成の水連線の終点駅で、大概水連線に乗る人は乗り換えを経て浜並線に乗る。
15両、という水連線より10両も多い列車で一駅150円と割高だが、それでも十分需要があるほど、交通の便を担っている存在だった。
それから、市電を走らす経緯というものがまた不思議だ。
そもそもの原因は、星浜川という現在の路面電車に沿うような形の大きめの川を並木市が埋め立てる、という計画が提案されたことにある。
埋め立てる、と言っても全てではなく並木市にもかかるくらいの大きさな川の為、並木市に入っている部分は埋め立てよう、という話だった。
埋め立て理由はスペースタワーの建設。
スペースタワーとは全長およそ670mという巨大な塔。
電波塔の役割とともに、大型レジャー施設でもある。
というのはスペースタワーの下、ぐるっと半径5kmを巨大な公園にし―尤も公園というよりレジャー施設だが。その5km内にプラネタリウムや映画館等のシアター、大型ショッピングモール、それから水族館に遊園地なんて施設を並べ小さなテーマパークのような役割を果させる。
という計画だった。
しかし、それらの計画に反対した浜海市と並木市は対立。
お互い犬猿の仲となり、並木市側は勝手に埋め立てる始末。
それに反対し、浜海市の住人が並木市で暴動を起こし事が悪化。
などという事態に陥り、両市の市長が友好の―いや仲直りの印としてひいたのがこの路面電車であった。
そこに町おこしに挑む水連町の水連線がちゃっかり便乗し、水連駅の建設を申し出てきた。そして結果建設されたのだ。
だが、スペースタワーもレジャー施設(俗にレジャー公園と呼ばれる)は建設され、正直仲が回復したとはいい難い。
一時は地元の土建屋絡みにまで発展し、火に油を注ぐ事態となってしまった。
もう既に住民同士などという小規模問題ではなくなってきている。
いや、正確に言えば住民達は最早呆れ返っているのだ。
そうこう脳内モノローグを続けている間に、村山会計という青い文字で書かれた美恵さんの仕事場に辿り着いたのだった。
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