10.14。(2012年綱吉様御誕生日祝)

ツナさん大人でヒバリさんはミニです。

誕生日小説かもしれない…
ちがうかもしれない…

長くはないです。


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10.14。







少し重くなった。

背中におぶった子は全身のちからをゆるめて、綱吉にからだを預けきっている。


「雲雀くん。寝たの?」

返事はない。
黒髪の小さな子供は静かに寝息を立て、綱吉の背中には規則的な胸の動きが伝わる。


綱吉は薄く微笑んで、それから辺りを見渡した。

久しぶりの、日本で迎える己の誕生日。
それももう夕方になって、半分は終わってしまったも同然だ。
**

自宅で奈々と雲雀と三人だけで過ごした誕生日は綱吉にとって、来年また三人で会う為にあと一年、頑張ろうと思えるほど愛しい時間だった。

普段は呆れるほど子供らしくない雲雀も奈々の前では超のつく甘えん坊で、抱っこに膝枕、締めくくりには奈々手作りの誕生日ケーキで大満足だった様子。

「もう帰らなきゃな、雲雀くん」
そう綱吉が促した時には、つり上がった黒い瞳を潤ませてしまったけれど。
帰りたくないなんて綱吉を困らすワガママなど言わない子だ。

自分しか子供がいない組織の中で暮らす雲雀は、たったの五歳で【大人ぶる】ということを覚えてしまったのだ。

だから。

「車のお迎えなんかやめてさ、この近所さ、ちょっと散歩して帰ろーよ雲雀くん」

味気ない車での移動より、もう少し、今日という日をゆっくりと。

雲雀の無表情な顔が無表情なりに、ぱっと明るくなった。

「しょうがないね。付き合ってあげるよ」
「おんぶしていい?久しぶりに」
「うん。…、……まちがったよ、おんぶなんかやだよ。あなた何言ってんの?」

迷惑そうにソッポを向く雲雀の前に綱吉はしゃがみこんだ。

「………」
彼からしたら大きな背中を差し出されるとおずおず負われにくるあたりは、本当には素直な子らしい。

「雲雀くん。オレの背中あったかいよ」
「ふうん。よかったね」

しっとりとぬくくて、柔らかい子供。
むにむにした白くてまるいほっぺが綱吉の肩に押し付けられて。
綱吉は笑顔で「母さん、また来るよ」と言った。


「じゃあ、またね、奈々」

奈々は二人をいつまでも手を振って見送ってくれた。

**



「…ここどこだい。」
不意に、むにゃりと声がした。

「あ、起きた?」
「ぼくねてないよ」
「…うん、?」

寝てたくせに。
綱吉は笑ってしまう代わりに、よっ、と軽く雲雀を背負い直してまた歩みを進めた。

「もうすぐ、獄寺くんの車が待ってるとこにつくぞ」
「もう?」

雲雀は手で顔をこすっているようだ。

「どした?」
「あのね。あなた、僕が奈々のお家でしてたことはチンピラたちには内緒だよ」
「チンピラやめなさい、ちゃーんと獄寺くんて呼べよ。お家でしてたことって、母さんに抱っことか膝枕とかしてもらってたことか?」
「…、そう。とにかく、ぜんぶぜんぶ、秘密だよ」
「はいはい」
「しゃべったら咬みころすだよ」
「その変な口癖もやめろよー」
「知らないよ」


こんな小さな、幼い雲雀でさえ我慢をしてしなやかに生きている。


住み慣れた故郷を離れて異国に暮らすくらい、
好きな生き方が出来ないくらい、

そんなもの。
この大事なひと達との時間に比べたら。

綱吉は思うのだ。

この子さえ居れば、自分はずっとずっと頑張れてしまうのだということを。

「オレの誕生日には、ほんとありがとうって気分だな、雲雀くん」
「何いってんの?日本語の文法までだめになったの?」

冷たい突っ込み。

「雲雀くんと母さんと過ごせる誕生日が嬉しいって言ってるんだ」
「ふーん」

どういう心境なのか、小さなもみじみたいな雲雀の手が綱吉のふわふわ髪を撫でる。

「誕生日おめでとう、綱吉。僕も悪くないって思うよ、また祝ってあげてもいいよ」

「ウッソ、雲雀くんがデレた!?あ、痛ッ、耳、耳ひっぱんな…!!」

道に、絡まったふたりの影法師が長く伸びている。




ずっと遠くまで、遠くまで。
このまま遠くまで。


二人はそう願いながら、今年も居るべき場所へと戻るのだ。










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2012.10.14

綱吉様!誕生日おめでとう!






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