行方知れずのカノープス


短い
日常

タイトル関係ない









*行方知れずのカノープス*


浮いてる。


綱吉は意識を取り戻すと、自分の体がふわっ、ふわっ、と心地良く浮いてるのに気がついた。
確か、気を失う直前には硬くて冷たい地面としたくもない口付けをしたはずなのだが。



なんでオレ浮いてるの?



腫れたまぶたを辛うじてあげたら、目の前には黒いもの。
誰かの肩だと思った。

「?」

おんぶされている。
でも一体だれに?

確かめたくて少しからだを捻ればズキリと節々が痛む。

そもそも気絶なんかしてしまったのは、目が合ったというだけでご近所の不良に絡まれストレス発散だとか何とか言われてタコ殴りにされたからであって、綱吉は我が身の不幸を嘆き「弱いものいじめのなくならないこの世なんて消えてしまえ」と念じてしまう程やさぐれた気持ちだった。


「〜♪、♪〜、」


綱吉をおんぶしているその人物は、小さく小さく、低くやわらかい声で、どうやら唄っているようだ。
子守唄みたいにゆるやかに、綱吉をあやすみたいに。

どこかで聞いた旋律。


「とう、さ、?」

だがその肩は綱吉の父よりはるかに小さく細い。

黒い服に包まれた肩から、視線をやれば、黒髪の襟足が真っ白なうなじにかかっているのが見えた。

綱吉は頭を巡らしたけれども、そのひとが誰かさっぱり分からなかった。



「あらぁっ、つっくん!?あら!」


「ごめんなさいね、ありがとうね」

「つっくん大丈夫?つっくん、」


遠くで、奈々が悲鳴をあげてしきりに誰かにお礼を言うのが聞こえた。



*



「おはよー…」
「おはよう、つっくん。もう痛いのマシになった?」
「うん…」

幸い骨は折れておらず、2日ほど学校を休むだけですんだ綱吉はもさもさ髪を掻き掻き、朝食の席についた。

もう目玉焼きを頬張っても唇の端にしみない。
綱吉が一生懸命がっついてる様を奈々は嬉しそうに見守っている。

「母さん」
「なあに」
「ちょっと、出かけてくる」

幸い、今日は土曜日でたっぷりからだを休められるというのに綱吉はサッサと着替えて街に繰り出した。

あの子守唄がなんだったのか、思い出したからだ。



「ミードーリタナービクーナーミーモーリーノー」

ちょうど綱吉の真上を、小さい鳥を過ぎてゆく。


ああ、やっぱり。
やっぱりだ。


その行方を探ってみると、居た。

「ヒバリさん。こんにちは…」
「…やあ」
「あの、」

くちに出してみて、綱吉はもじもじし始めた。
今まで不良の代名詞であるヒバリとこんな風に面と向かって話す機会なんてそうそう無かったのだ。

ヒバードは綱吉の緊張を知らず、ふかふかと、ヒバリの黒髪に気持ちよさそうに座っている。


「何か用でもあるの」

休日だのに羽織った学ランの肩を軽くなおすような仕草をして、ヒバリは小首を傾げてみせる。

「…オレのこと、おぶって家に送ってくれたの、もしかしてヒバリさん…ですか?」

ヒバリは答えずに、なんだか柔らかくくちびるを微笑ませていた。

その切れ長の黒曜石は涼しげでうつくしく、綱吉はもう何も言えずに言葉を飲んだ。

「道で伸びてた小動物を拾ったんだ。ふわふわで、すごく軽かったな」

擦れ違い様にヒバリが呟いた。

「きみ、も少しごはん食べなね」

振り向いたら、ヒバリの背中はずいぶん離れて小さくなって、綱吉は自分がお礼すら言わなかったことに気付いた。


「ありがとうございました」


並盛最強の不良であるヒバリの意外と細い背中とやさしい歌声。

それを思うと、なんだか世の中もまだ捨てたものじゃないか、と、綱吉は照れくさそう笑い、朗らかに歩き出した。





おわり




****


ほのぼの目指してみた(´ω`)

実はやさしい先輩とひ弱な後輩





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